倉庫の賃料相場の読み方——坪単価と「使える床面積」
2026-10-23 Skrrs 編集部

「A物件とB物件、募集図面の坪単価を比べたらB物件のほうが安かったので、そちらで話を進めようと思っています」。倉庫を初めて借りる方から、こうしたご相談をいただくことがあります。
募集図面に並んだ坪単価は、一見すると同じ物差しで測った数字に見えます。ところが倉庫の場合、その数字の分母にある「面積」の中身が、物件ごとにかなり違います。柱がどこに何本立っているか、搬入口の前にどれだけ余白を空けておく必要があるか、天井までの高さがいくつあるか。こうした条件によって、同じ坪数でも実際に荷物を置ける床は変わります。
この記事では、倉庫の募集賃料を読むための手順を整理します。相場の水準そのものは扱いません。物件と時期で幅が大きく、金額を覚えても目の前の二件を比べる役には立たないためです。代わりに、表示された面積と実際に使える床のあいだにずれが生まれる要因を挙げ、それを織り込んで坪単価を比べ直す計算の手順を説明します。読み終える頃には、手元の候補を自分の物差しで並べ直せる状態を目指します。
1. 坪単価が安い物件が、安いとは限らない
最初に、なぜ坪単価をそのまま比べてはいけないのかを押さえます。ここを飛ばすと、以降の手順が単なる面倒な計算に見えてしまいます。
募集条件の坪単価は、月額賃料を契約面積で割った数字です。分子も分母も客観的な数字ですから、比較に使えそうに見えます。
しかし借主が知りたいのは「一坪あたりいくらか」ではなく、「置きたい荷物を置き、必要な作業をするために月々いくら払うか」です。事務所であれば、この二つはおおむね一致します。人が机に向かう用途では、床のどこであっても同じように使えるからです。
倉庫では一致しません。柱の脇、搬入口の前、シャッターの可動範囲、消火設備の前面。契約面積には含まれるのに荷物を置けない床が相当量あり、その量は物件ごとに違います。整形で柱の少ない区画と、細長くて柱が林立する区画では、同じ坪数でも棚を並べられる面積が変わります。
この差に気づかないまま数字だけで候補を絞ると、契約したあとに「思ったほど入らない」という形で現れます。しかも倉庫では、それに気づくのが荷物を運び込んだ日です。区画を広げることも隣を借り足すこともできない物件が大半で、移転には原状回復と再度の初期費用がかかりますから、実質的には数年単位で戻れない判断になります。
だからこそ、比較の作業は「金額を並べる」ではなく「分母を揃える」から始めます。分母さえ揃えば、あとは割り算だけです。
2. 表示された面積は、何を指しているのか
分母を揃える作業は、表示面積の定義を確認するところから始まります。見落とされやすい割に、あとから効いてくる項目です。
募集条件に書かれた面積は、多くの場合その区画の契約面積です。ところが「契約面積」という言葉が指す範囲は、貸主や物件によって同じではありません。倉庫部分だけを指すこともあれば、区画に付いている事務所や更衣スペース、階段室や手洗いまで含んでいることもあります。
屋外に張り出した庇の下や、トラックが着ける荷捌きスペースの扱いも分かれます。専用で使えるなら価値がありますが、共用であれば他のテナントと時間を分け合うことになり、同じようには数えられません。
実務上の進め方はこうです。募集条件の面積を見たら、そのまま計算に入らず内訳を尋ねます。「この面積に事務所部分は含まれますか」「庇下は含まれますか」「荷捌きスペースは専用ですか」。この三つを聞くだけで、二件の分母が同じ物差しになっているかどうかが分かります。
3. 使える床を削るもの——柱・梁下・搬入口まわり

定義を揃えたら、次はその面積から「置けない床」を差し引きます。何が削るのかを具体的に知っておくと、図面を見た時点であたりを付けられるようになります。
柱は、面積より「割付の崩れ」で効く
柱が占める面積そのものは、区画全体から見れば小さなものです。実務で効くのは、柱があることで棚の割付が崩れる点です。
倉庫の床は、棚やパレットという決まった大きさの単位で埋めていきます。柱の間隔がその単位の整数倍に近ければ、端の余りは小さく収まります。少しずれていると、列ごとに使えない帯が残ります。その帯を全部足すと、柱の断面積の何倍にもなります。
ですから図面を見るときは、柱の本数ではなく間隔を見ます。そして自社が使う棚やパレットの寸法を先に決めておき、その寸法で何列取れるかを数えます。ここまでやって初めて、柱の影響が数字になります。
搬入口の前は、常時空けておく床
シャッターや搬入口の前は、積み下ろしと一時置きに使う場所です。ここを棚で埋めると、荷受けのたびに荷物の行き場がなくなります。
必要な奥行きは荷姿と車両で変わります。パレット単位で受けるのか、小口が中心なのか。フォークリフトを使うなら旋回できる広さも要ります。台車前提の物件にあとからリフトを入れて通路幅が足りない、というつまずきも起こります。
設備と動線は、図面に描かれない
分電盤の前面、消火設備の周囲、非常口へ至る通路は塞げません。事務所や休憩スペース、手洗いも、保管には使えないのに賃料には含まれます。
床そのものの状態も影響します。傾きがあればパレットを高く積めませんし、排水溝の上には棚を固定できません。図面には出ないため、現地で歩いて確かめる項目になります。
| ずれが生まれる要因 | 図面での見え方 | 使える床への影響 |
|---|---|---|
| 柱の位置と間隔 | 平面図に点として描かれる | 柱の断面より、棚の割付が崩れて生じる端の余りが大きく効く |
| 梁やダクトの下がり | 断面図がないと分からない | 床は使えても上が使えず、高い棚を置ける範囲が限られる |
| 搬入口まわりの余白 | 開口の位置と幅のみ記載 | 荷受けと一時置きのため常時空けておく必要がある |
| 通路と旋回スペース | 記載されないことが多い | 台車かフォークリフトかで必要な幅が変わる |
| 事務所・休憩・手洗い | 区画として記載される場合がある | 保管には使えないが賃料の対象には含まれる |
| 消火設備・分電盤まわり | 設備図に記載 | 前面を塞げないため棚や荷物を置けない |
| 床の傾き・排水溝 | 記載されないことが多い | 積み上げ高さや棚の固定位置が制限される |
4. 高さを数えないと、使える量は出ない

床の話が済んだら、次は上方向です。倉庫は立体で使う建物なので、床面積だけでは容量が決まりません。
募集条件に書かれる天井高は床から天井までの寸法であることが多く、そのまま棚の高さには使えません。実際に棚を置ける高さは、梁の下端、照明器具、配管やスプリンクラーといった下がってきているものまでの寸法です。この「有効高」は、天井高より低くなるのが普通です。
しかも、区画のどこでも同じとは限りません。梁の位置によって部分的に低い帯ができることがあり、棚を並べる列がその帯にかかるかどうかで段数が変わります。
段数の出し方は単純です。有効高から、棚の上に確保する余裕と荷姿の高さを差し引いていきます。一段あたりの高さが決まれば、何段組めるかが出ます。
この計算をしておくと、比較の見え方が変わります。床が狭くても高さが取れる物件と、床は広いが低い物件では、保管量で逆転することがあるからです。
- 天井高ではなく、梁下・照明・配管の下端までの有効高を確認する
- 区画内で有効高が変わる場所(梁の下、事務所の上部など)を図面で押さえる
- 自社の荷姿の高さと、棚一段あたりに必要な余裕を先に決めておく
- 段数が一段変わったときに、保管量がどれだけ変わるかを計算しておく
- 高い位置に荷物を上げる機材(リフトの揚高)が手持ちで足りるかを確認する
最後の項目は見落とされがちです。高さがあっても、そこまで荷物を上げる手段がなければ使えません。機材の買い替えが前提なら、その費用も比較に入れます。
5. 坪単価を「使える床あたり」に置き換える四つの手順

ここまでの材料を使って、実際に計算します。手順は四つで、電卓があれば十数分で終わります。
面積を揃え、置けない床を引き、総額で割る
手順1は、表示面積の定義を揃えることです。倉庫部分だけを分母にすると決め、全候補でその範囲に統一します。
手順2は、置けない床を差し引いて有効面積を出すことです。柱による割付の崩れ、搬入口前の余白、通路、設備まわり。おおまかで構いません。棚が何列並ぶかを数えるほうが、率で見積もるより実態に近づきます。
手順3は、月々の総額を有効面積で割ることです。分子は賃料だけでなく、共益費など毎月出ていくものを足した金額にします。
手順4は、保管が主な用途なら、さらに段数を掛けて容量あたりに直すことです。作業が主なら床のままで構いません。
計算例——物差しを変えると順位が入れ替わる
実際に数字を入れてみます。金額は指数として扱い、A物件の月々の総額を100とします。
- A物件: 契約面積200坪。整形で柱が少なく、有効面積は170坪。有効高から棚は3段組める
- B物件: 契約面積240坪。柱が多く搬入口前の余白も大きいため、有効面積は168坪。有効高が取れるため棚は4段組める
- 月々の総額は、Aを100としたときBは108(いずれも仮の指数)
- 表示面積あたり: A=100÷200=0.50、B=108÷240=0.45 → Bのほうが安く見える
- 有効面積あたり: A=100÷170=約0.59、B=108÷168=約0.64 → Aのほうが割安に逆転する
- 保管容量あたり(有効面積×段数): A=100÷510=約0.20、B=108÷672=約0.16 → 再びBが割安に逆転する
同じ二件が、物差しを変えるたびに順位を入れ替えました。計算を作り込んだからではなく、倉庫という商品がもともとそういう性質を持っているからです。
では、どの物差しを採るのか。用途で決まります。人が動いて検品や梱包をする作業中心の使い方なら、上に積める量は効きにくいので有効面積あたりで見ます。パレットを積んで置いておく保管中心の使い方なら、容量あたりが実態に近くなります。両方が混ざるなら、区画を分けてそれぞれで計算します。
この作業の価値は順位が出ることではなく、「自社にとって何が高い買い物なのか」を言葉にできることです。ここが決まっていれば、条件の相談の場でも譲れるものと譲れないものを即答できます。
| 確認項目 | 図面や募集条件で分かること | 現地で確かめること |
|---|---|---|
| 契約面積の定義 | 何坪と書かれているか | 事務所・階段・庇下が含まれるかを貸主側に確認する |
| 柱スパン | 柱の位置と間隔 | 自社の棚寸法で並べたときに残る端の余り |
| 有効高 | 天井高の表記 | 梁・照明・配管がどこまで下がっているか |
| 搬入口 | 開口の数と幅 | 車を寄せたときに手前に残る荷捌きの余白 |
| 床の状態 | 床荷重の表記 | 傾き・排水溝・ひび・塗装の傷み |
| 附帯設備 | 設備の有無 | 残置か貸与か、故障時の負担はどちらか |
6. 賃料の外側で、毎月出ていくもの
分母を揃えたら、今度は分子です。倉庫では賃料以外の負担が事務所より大きくなりやすく、ここを外すと計算がずれます。
まず共益費です。何が含まれているかは物件で違います。共用部の照明と清掃だけのこともあれば、警備や設備の保守まで入っていることもあります。額の大小より、含まれる範囲を確かめるほうが実務的です。含まれていない項目は、いずれ別の名目で自社の負担になります。
次に電気です。フォークリフトの充電、シャッターの動力、照明。動力の契約容量が足りなければ、増設の工事費が入居前に発生します。冷蔵や冷凍が要る荷物なら、電気の負担はさらに大きくなります。
空調の有無も見ておきます。空調のない倉庫は珍しくありませんが、夏と冬に人が長時間作業するなら送風や暖房の手当てが要ります。
附帯設備の扱いも確認します。前の借主が残したラックや空調は、貸主から借りるのか譲り受けるのかで、壊れたときの負担者が変わります。使えるからと数えていた設備が、実は自社で直す前提だったということがあります。
駐車場やトラックバースが別料金かどうかも、月々の負担に直結します。何台停められるかではなく、何台停める必要があるかから逆算します。
最後に、フリーレントや段階賃料です。当初の数ヶ月が減額される条件は月額だけを見ると割安に見えますが、契約期間全体の総額を期間で割り、ならした月額で比べると見え方が変わることがあります。
- 共益費に何が含まれ、何が含まれないか
- 動力の契約容量と、増設が要る場合の工事負担
- 空調・換気の有無と、夏冬の作業環境の手当て
- 残置設備が貸与か譲渡か、故障時の負担者はどちらか
- 駐車場・バースが賃料に含まれるか別料金か
- フリーレントや段階賃料を期間全体でならした月額
7. 比較の順番——安い順に並べない三段階のふるい方

最後に、計算した数字をどう使うかを整理します。数字が出ると安い順に並べたくなりますが、その順番では判断を誤りやすくなります。
第一段階は、金額を見ずに落とすことです。荷物が入るか、必要な作業ができるか、車両が着けられるか。これを満たさない物件は、どれだけ割安でも候補になりません。ここで一番安い物件が消えることは珍しくありませんが、それでよいのです。
第二段階で、残った候補を有効面積あたり、あるいは容量あたりで並べ直します。表示の坪単価とは順位が変わることが多く、ここで初めて実態に沿った比較になります。
第三段階は、期間全体の負担で見ることです。移転にかかる費用、退去時の原状回復、契約期間の長さ。毎月の差が小さいなら、初期と出口の差のほうが総額を左右します。
この三段階を踏むと、多くの場合、一番安い物件でも一番良い物件でもない候補が残ります。極端な選択肢は、たいてい何かを犠牲にしています。安すぎる物件には理由があり、条件の揃った物件には相応の金額が付いています。真ん中に残った候補を、自社の条件で説明できるかどうか。それが判断の質になります。
あわせて、判断を誤りかけているときに出やすい前兆を挙げておきます。どれか一つでも当てはまったら、いったん手を止めて計算に戻ります。
- 候補を金額の順で並べた表しか手元にない
- 自社の棚やパレットの寸法を、まだ誰も測っていない
- 「たぶん入ると思います」という言葉で面積の話が終わっている
- 有効高を確認せず、天井高の数字で棚の段数を話している
- 共益費の内訳を聞かないまま、賃料だけで比較している
- 現地を見た人と金額を判断する人が別で、情報が渡っていない
倉庫の契約は、事務所より面積が大きく期間も長くなりがちです。判断の順番を先に決めておくことが、そのまま数年分の負担の差になります。
よくあるご質問
Q. 募集図面の坪単価と、実際に払う月額はどう違いますか
坪単価は賃料を契約面積で割った数字で、実際に払う月額はそこに共益費や駐車場代などを加えた金額になります。さらに電気や設備の維持費といった、契約の外側で発生する負担もあります。毎月口座から出ていく合計額を分子に置くと実態に近づきます。
Q. 有効面積は自分で測ってもよいのでしょうか
むしろ自分の物差しで見積もるほうが実務的です。公的に統一された測り方があるわけではないため、正解を探すより全候補で同じ数え方を使うことが大切です。自社の棚やパレットが何列並ぶかを数える方法が、もっとも実態に近い見積もりになります。
Q. 柱が多い倉庫は避けたほうがよいですか
一概には言えません。柱の本数より、柱の間隔が自社の棚割りと合うかどうかで判断します。間隔が棚の寸法とうまく噛み合えば、柱が多くても損失は小さく収まります。逆に、柱が少なくても間隔が中途半端であれば、端の余りが積み上がります。図面の上で実際に並べてみるのが確実です。
Q. フリーレントが付いている物件は、そのぶん安いと考えてよいですか
契約期間全体で払う総額を期間で割り、ならした月額で比べると判断しやすくなります。期間が長いほど、当初の減額分は月あたりでは薄まります。途中解約時の扱いが定められていることも多いので、条件を確認したうえで計算に入れてください。
Q. 候補が三件以上あるとき、どこまで細かく計算すればよいですか
最初から全件を細かく計算する必要はありません。まず用途の条件で落とし、残った二、三件について有効面積あたりを出す。この順番であれば作業量は抑えられます。細かい積算が要るのは、最後に残った候補の差が小さく判断がつかないときだけです。
まとめ
倉庫の募集賃料は、坪単価をそのまま並べても比較になりません。分母である面積の中身が物件ごとに違うからです。柱の間隔、搬入口前の余白、通路、設備まわり、そして上方向の有効高。これらを織り込んで「使える床」を出し、そこに月々の総額を割り付けると、表示の順位とは違う実態が見えてきます。
手順は四つでした。面積の定義を揃える。置けない床を差し引く。毎月出ていく総額を有効面積で割る。保管中心なら段数を掛けて容量あたりに直す。そのうえで、条件で落とす、使える床で並べ直す、期間全体で判断する、という三段階のふるいにかけます。金額の順に並べるのは、すべてが終わったあとです。
この読み方は、候補が少ないうちほど効きます。運び込んでから気づく不足は取り返しがつきにくいためです。図面を開いた段階で自社の棚が何列並ぶかを数えておく。それだけで選択の質は変わります。
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