セットアップオフィスと居抜き——内装費が上がる局面の選び方

2026-10-13 Skrrs 編集部

セットアップオフィスと居抜き——内装費が上がる局面の選び方

「内装にいくらかかるのかが読めないので、移転そのものを止めています」。移転の検討を始めたご担当者から、こうしたご相談をいただくことがあります。候補の物件は見つかっている。増える人数も分かっている。それでも工事の金額が固まらないために、社内の稟議が前に進まないという状態です。

内装の工事費は上昇傾向にあると言われる局面が続いており、数年前と同じ感覚で予算を組むと見積もりと合わない、という話も耳にします。そうしたなかで関心が集まっているのが、内装があらかじめ用意された区画——セットアップオフィスと居抜きオフィスです。

ただしこの二つは、似ているようで成り立ちが違います。退去するときの負担まで含めると、評価が逆転することもあります。この記事では、セットアップ/居抜き/内装の無い素の区画という三つを同じ物差しで並べ、それぞれが何を解決し、代わりに何を手放しているのかを整理します。読み終える頃には、自社の条件からどの型を軸に探すかを判断できる状態を目指します。

1. 内装の金額が読めないと、移転そのものが止まる

移転の相談が途中で止まる理由は、物件が見つからないことよりも、総額が確定しないことにあるほうが多いという印象があります。賃料と保証金は募集条件を見れば分かりますが、内装工事の金額は設計してみないと出ません。設計するには区画を仮に押さえる必要があり、押さえるには社内の承認が要る。承認を得るには総額が要る。この循環に入ると、検討は静かに止まります。

止まっている間にも期限は動いています。とくに事業用の賃貸借では、解約の予告を数ヶ月前——規模によっては半年前——に出す取り決めになっていることが多く、この日を一度越えると次の機会まで時間が延びます。席が足りないまま人を採る、会議室が取れずに打ち合わせが社外に出る。こうした負担は請求書には出てきませんが、確実に時間を使っています。

ですから工事費が読みにくい局面では、金額を正確に当てにいくより先に、工事の量そのものを減らす選択肢があるかを検討の入口に置くほうが現実的です。セットアップと居抜きは、まさにその選択肢にあたります。金額の精度を上げる話ではなく、金額が発生する範囲を変える話だと捉えると、位置づけがはっきりします。

2. 三つの型を、同じ物差しで並べる

白い机の上に、無地の平面図が3枚、同じ向き・同じ間隔で横一列に並べられ、脇に定規とペン

まず言葉の整理から始めます。三つの型は「内装を誰が作ったか」で分かれており、この一点を押さえると、費用の出方も責任の所在も説明がつきます。

セットアップオフィスは、貸主が募集の段階で内装を仕上げてある区画です。間仕切りや会議室、床の仕上げや照明、場合によっては什器まで整えて募集されます。作ったのは貸主であり、内装は貸主の資産です。

居抜きオフィスは、前の借主が使っていた内装を引き継ぐ形です。作ったのは前の借主であり、引き継ぐには前の借主との間で造作の譲渡について取り決めるのが一般的です。対価が発生することもあれば、無償で引き渡されることもあります。

素の区画は、内装が無い状態から自分で作る形です。ここで一つ注意があります。オフィスでいう「スケルトン」は、店舗でいうスケルトンとは指すものが違います。店舗では躯体がむき出しの状態を指すことが多いのに対し、オフィスビルでは床のOAフロア、天井、照明、空調が入った状態で引き渡されるのが一般的です。この認識がずれていると、工事の量を過大にも過小にも見積もることになります。

比べる物差しは賃料の高さではありません。作った人、資産の所在、入居までの時間、契約時に出ていく金額、退去時に戻す範囲、レイアウトの自由度。この六つで並べます。

観点セットアップ居抜き素の区画から作る
内装を作った人貸主前の借主自社
内装の資産貸主のもの譲渡の取り決めによる自社のもの
入居までの時間短くなりやすい短くなりやすいが調整は要る設計と工事の期間が要る
契約時に出ていくお金保証金など。工事費は原則かからない保証金に加え造作の譲渡対価が生じることがある保証金に加え工事費がまとまって出ていく
毎月の負担内装のぶんが賃料に乗ることが多い同じビルの水準に近いことが多い同じビルの水準に近いことが多い
退去時に戻す範囲引き渡し時の状態の定義による引き継いだ範囲まで負う場合がある契約で定めた状態まで戻す
レイアウトの自由度低い。すでにある形を使う低い。前の借主の形を使う高い。要件から設計できる
向きやすい状況立ち上げを急ぐ・人数の変動が大きい条件の合う出物に出会えた長く使う・固有の要件がある

セットアップと居抜きは「工事をしなくてよい」点だけが似ていて、資産の所在も退去時の扱いも別物です。ひとまとめに「内装付き」として比べると判断を誤ります。

3. 割高に見えるセットアップが選ばれている理由

家具・照明・会議スペースまで整えられた、新しいセットアップ区画の一角

セットアップオフィスの賃料は、同じビルの内装が無い区画より高めに設定されるのが一般的です。貸主が負担した工事費を賃料に織り込むためで、募集条件だけを横に並べると割高に見えます。それでも候補に残す企業が増えているという話を現場では聞きます。理由は三つあります。

一つ目は時間です。設計・見積・工事・検査の工程が要らないぶん、契約から入居までが短くなります。ここで効くのが、いま借りている区画と新しい区画の賃料が重なる期間です。工事のために新しい区画を数ヶ月押さえ、その間も旧区画の賃料を払い続ける。この二重の負担は工事の見積書には載りませんが、実際には移転費用の一部です。

二つ目は初期費用の出方です。内装を自社で作れば、工事費は完成のタイミングでまとまって出ていきます。セットアップならその部分は毎月の賃料に乗る形になり、手元の資金が一度に減りません。総額として得かどうかは別の話ですが、資金繰りに山を作らずに移転できる意味は小さくありません。

三つ目が原状回復です。内装を自社で作れば、退去時にはそれを撤去して契約に定めた状態へ戻すのが原則です。セットアップでは、引き渡しを受けた状態が内装のある状態であるため、その状態のまま返せばよいという取り決めになっていることがあります。退去時の工事が軽くなるという意味で、これは実質的な費用差です。

ただし三つ目には条件があります。軽くなるかどうかは、契約書が「引き渡し時の状態」をどう定義しているかで決まります。ここを読まないまま「セットアップだから原状回復は軽い」と思い込むのが、最もよくある誤解です。入居後に追加した間仕切りや配線の扱いも含め、戻すべき状態を文章で確認してください。

4. 居抜きオフィスの実像——「そのまま使える」はどこまでか

前の入居者が残した間仕切りと造作の棚がある区画

居抜きオフィスは、条件が合えば費用と時間の両方を抑えられる選択肢です。一方で、引き継ぐのは内装だけとは限りません。ここを確認しないまま契約すると、入居時に浮いた費用を退去時に払い直すことになります。

最初に押さえたいのは、造作をどういう形で引き継ぐのかという点です。前の借主が作った内装は、多くの場合その借主の資産です。引き継ぐには前の借主との間で譲渡の取り決めが要り、貸主との賃貸借契約とは別の契約になるのが一般的です。

次が、原状回復の義務がどこへ行くのかという論点です。本来、前の借主には内装を撤去して返す義務がありました。居抜きで引き継ぐとは、その撤去を今回は行わないということです。では誰がいつ行うのか。取り決め次第では、次に退去する側——つまり自社——が、自分で作っていない部分まで戻す立場になります。入居時の負担は軽く、退去時の負担は重い。この構造になっていないかを契約前に確かめてください。

三つ目がレイアウトです。居抜きの内装は、前の借主の人数と働き方に合わせて作られています。自社の人数が違えば、使わない部屋の賃料を払い続けることになりますし、逆に足りなければ結局工事が発生します。図面を見るときは、いまの席数ではなく二年後の想定人数を当てはめてみてください。

四つ目が設備の状態です。空調、配線、什器。見た目が整っていても、使用年数は前の借主の入居期間ぶん進んでいます。故障したときに誰が直すのかは、譲渡の取り決めと賃貸借契約の両方で決まります。建物に元から備わっている設備か、後から借主が入れた設備かで扱いが変わりますので、区分を書面で確認しておくと後が楽です。

最後に、前の借主がなぜ退去するのかを聞いておくことをおすすめします。理由の良し悪しではなく、聞ける情報が多いほど、建物や周辺について確認しておくべき点が見えてきます。

5. それでも素の区画から作るほうがよい会社

内装の無いスケルトンに近い素の区画

ここまで読むと、内装が付いている区画のほうが有利に見えるかもしれません。しかし条件によっては、素の区画から作るほうが合理的です。公平に整理しておきます。

一つ目は、レイアウトに固有の要件がある会社です。サーバーを置く部屋が要る、通話や配信のために遮音した部屋が要る、来客と社員の動線を分けたい。こうした要件をすでにある内装に合わせて妥協すると、業務のほうが曲がります。既製の間取りに合わせるコストは賃料には現れませんが、毎日発生します。

二つ目は、長く使う前提の会社です。セットアップの賃料には内装のぶんが乗っており、入居している限り払い続けます。自社で作った内装は最初にまとまって出ていきますが、その後の月額には乗りません。何年その場所を使うかによって、どちらが軽いかは入れ替わります。三年で見るのか七年で見るのかを先に決めておくと、比較が具体的になります。

三つ目は、空間でブランドを表現する会社です。来客の多い会社、採用の場としてオフィスを見せる会社。セットアップは効率よく作られている反面、同じビルの他の区画と似た仕上がりになりやすく、差がつきにくい面があります。

逆に、立ち上げを急いでいる、人数の変動が大きい、拠点を増やしている途中。こうした状況では自由度よりも時間と身軽さが効きます。どちらが優れているという話ではなく、自社がいまどちらの局面にいるかという話です。

なお、素の区画から作る場合、工事のおおよそのボリュームは区画を見る段階で見当がつきます。例えばSkrrsでは、事業用の賃貸仲介とあわせて内装の設計・工事もお受けしているため、候補の区画を見るときに、そこへ何を作るとどのくらいの規模になりそうかを同じ場でご一緒に見立てる、という進め方をとっています。

6. 三つを分ける五つの質問——判断の順番

どの型を軸に探すかは、金額の比較からではなく条件の確定から決めます。順番を守ると後戻りが減りますので、以下の五つをこの順で答えてみてください。

一つ目は、いま借りている区画の解約予告期間と原状回復の条件です。すべての時間軸がここで決まります。予告が半年前なら、新しい候補が固まる前に予告を出すかどうかという判断が発生します。逆に予告を出さずに探し続けると、良い区画に出会っても入居時期が合いません。移転で最初に開く書類は、新しい物件の資料ではなく、いまの契約書です。

二つ目は、その場所を何年使う想定かです。短めなら内装費を一括で出すより月額に乗せるほうが合いやすく、長く使う前提なら自社で作る選択肢が現実味を帯びます。事業計画の話でもあるので、経営側と先に合わせておくと後でぶれません。

三つ目は、レイアウトに固有の要件があるかどうかです。無ければすでにある内装で足ります。あるなら、その要件が既存の内装に足せるものか、作り直しが要るものかを分けます。足せるものなら、居抜きやセットアップに部分的な工事を加えるという中間の選び方もできます。

四つ目は、内装費をどう払いたいかです。手元の資金を厚く保ちたいのか、長期の月額を軽くしたいのか。同じ総額でも、出ていき方が違えば経営判断は変わります。

五つ目が、空間でブランドを表現する必要があるかどうかです。ここまでの四つで決まらない場合、この観点が最後の判断材料になります。決め手が無いまま候補を眺め続けるより、優先する軸を一つ決めるほうが前に進みます。

確認する順番どこを見るかこれで決まること
1. 解約予告と原状回復の条件いま借りている区画の契約書の該当条項移転全体の期限と、予告を出す時期
2. その場所を何年使うか事業計画と人員計画内装費を月額に乗せるか、一括で出すか
3. レイアウトの固有要件業務の動線と、必要な部屋の種類すでにある内装で足りるか、作り直しが要るか
4. 内装費の出し方手元資金と資金繰りの見通しセットアップ寄りか、自社で作る寄りか
5. ブランド表現の必要度来客と採用の頻度、見せ方の方針素の区画から作る価値があるか

答えが動きやすいのは二つ目と四つ目で、事業の見通しが変われば見直してかまいません。動かしてはいけないのは一つ目だけです。

7. 契約前に戻れなくなる項目と、失敗の前兆

最後に、あとから修正が効きにくい項目をまとめます。ここだけは、署名の前に時間を使う価値があります。

一つ目は、退去時に戻すべき状態の定義です。契約書の「引き渡し時の状態」が何を指すのかは、署名する前でなければ話し合う余地がありません。セットアップなら内装込みの状態と読めるのか、居抜きなら前の借主が作った部分まで含むのか。口頭の説明ではなく文章で確認し、可能であれば引き渡し時の写真や図面を添えて範囲をはっきりさせておくと、退去時の食い違いを避けられます。

二つ目は、造作の譲渡に関する取り決めです。譲渡の対象一覧、対価、引き渡しの時期、不具合があった場合の扱い。署名の後に「これは含まれていなかった」と分かっても戻せません。設備は、一覧に品目と設置の時期が入っていると後の判断が楽になります。

三つ目は、解約予告を出す順番です。予告を出してから探すのか、目星をつけてから出すのか。どちらにも理屈がありますが、選んだ後で入れ替えることはできません。予告の期限、工事の期間、引越しの日程、旧区画の原状回復の期間を一枚の線の上に並べてから決めてください。

あわせて、判断が甘くなっているときに現れやすい前兆を挙げます。当てはまるものがあれば、契約を進める前に一度立ち止まるサインです。

今週できることを一つ挙げるとすれば、いま借りている区画の契約書を開き、解約予告と原状回復の条項に付箋を貼ることです。この二つが分かれば、選べる型はかなり絞られます。あわせて二年後に必要な席数と会議室の数を書き出しておくと、内見での判断が速くなります。

よくあるご質問

Q. セットアップオフィスは、レンタルオフィスとどう違うのですか

契約の性質が違います。セットアップオフィスは通常の賃貸借契約で区画を借りる形で、自社の名義で専有し、内装は貸主が用意したものを使います。レンタルオフィスの多くは施設の利用契約で、使い方や設備の扱いは運営会社の規約に沿います。見た目は似ていますが、比較するときは賃料の水準ではなく契約の形から確認してください。

Q. 居抜きのオフィスは、どうすれば見つかりますか

居抜きは出物であり、狙って探し当てられる性質のものではありません。前の借主が退去を決め、貸主が原状回復を求めない判断をして、はじめて成立します。ですから、条件を伝えたうえで、情報が出た段階で連絡をもらえる関係を作っておくのが現実的です。あわせて居抜きに絞らず、セットアップや素の区画も並行して見ておくと、時期に振り回されずに済みます。

Q. セットアップの賃料が高いぶんは、どのくらいの期間で見合うものですか

物件によって差が大きいため、一律の目安を申し上げることはできません。考え方としては、自社で内装を作った場合の工事費と、セットアップの賃料が同じビルの他区画より高い分の年額を並べ、何年で追いつくかを見ます。そこへ入居までの期間の差で生じる二重賃料と、退去時の原状回復の差を加えると、実態に近づきます。金額は見積もりが出てからで足りますので、この四つを並べる枠だけ先に作っておいてください。

Q. 居抜きで引き継いだ空調が故障した場合、誰が直すのですか

その設備が建物に元から備わっているものか、前の借主が後から設置したものかで扱いが変わります。建物側の設備であれば貸主の負担となる範囲が広く、借主が設置した設備を引き継いだ場合は、引き継いだ側が管理する形になるのが一般的です。分かれ目は設置の経緯にありますので、造作の譲渡に関する一覧と賃貸借契約の両方で確認してください。

Q. 移転を決めてから入居まで、どのくらいの期間を見ておけばよいですか

型によって幅があります。素の区画から作る場合は、設計、見積、工事、検査という工程が順に必要になるため、まとまった期間を見ておくことになります。セットアップや居抜きであればその工程は短くなりますが、契約の手続きと引越しの準備は同じように発生します。いずれの場合も、いま借りている区画の解約予告期間が全体の期限を決めますので、そこから逆算してください。

まとめ

セットアップ、居抜き、素の区画。三つの違いは、内装を誰が作ったかという一点から生まれています。作った人が違えば資産の所在が違い、入居までの時間が違い、退去時に戻す範囲が違う。賃料の高低はその結果であって、比較の出発点ではありません。

工事費が読みにくい局面では、金額を当てにいくより、工事の量を減らす選択肢があるかを先に検討するほうが前に進みます。そのうえで、使う年数・固有の要件・資金の出し方・ブランド表現の必要度という四つで自社の位置を決めれば、探すべき型は絞られます。最初に開く書類は、新しい物件の資料ではなく、いま借りている区画の契約書です。

Skrrsは、オフィス・店舗・倉庫などの事業用賃貸仲介、内装の設計・工事、従業員向けの住宅仲介・社宅手配を手がける、事業用不動産の総合パートナーです。ご相談は無料です。どの型で探すべきかを決めかねている段階でも、いまの契約条件と二年後の人数から一緒に整理するところから、お気軽にご相談ください。

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