満室のいま考える、次の更新での賃料の見直し方

2026-08-12 Skrrs 編集部

満室のいま考える、次の更新での賃料の見直し方

「満室だから、うちは大丈夫」。物件オーナーの方とお話ししていると、よくこの言葉を耳にします。しかし満室は、収益が最大化されている状態とは限りません。長く入居いただいているテナントの賃料が、周辺の相場から少しずつ離れていく——これは、丁寧に物件を運営してきたオーナーほど起こりやすい現象です。

この記事では、満室のオーナー様に向けて、「次の契約更新」というタイミングで賃料を見直すための準備と段取りを、実務の順番に沿って解説します。空室対策の記事は多くありますが、満室時にやるべきことを扱った情報は多くありません。だからこそ、知っているかどうかで差がつく領域です。

1. なぜ「満室のとき」に考えるのか

賃料の見直しは、思い立ったその日にできるものではありません。事業用の賃貸借契約では、賃料の変更は基本的に契約更新のタイミングで、テナントとの合意によって行われます。つまり、動けるチャンスは数年に一度しか巡ってきません。

そして、そのチャンスを活かすには準備が必要です。周辺相場の資料を揃え、伝え方を組み立て、更新の半年前には話を始める——この段取りを逆算すると、「更新の直前に考え始める」のでは間に合わないことが分かります。満室で安定している今こそ、次の更新に向けた仕込みの期間です。

2. 賃料が周辺相場から離れていく3つの理由

長期入居のテナントがいる物件で、賃料が相場より低くなりやすいのには、構造的な理由があります。

重要なのは、これはオーナーの怠慢ではないということです。テナントとの良好な関係を大切にしてきた結果として自然に起こることであり、だからこそ「関係を壊さずに見直す方法」が必要になります。

差が開いているかどうかを手早く確かめる方法は、「いま同じ区画を新規で募集するなら、いくらで出すか」を考えてみることです。この想定賃料と現行賃料の間に無視できない開きがあるなら、見直しを検討する価値があります。逆にほとんど差がなければ、今回は据え置きと決めて、次の更新に備える期間に充てられます。

3. 見直しの前に揃える3つの材料

賃料の比較資料と電卓を置いた机。相場をデータで整理する
感覚ではなく、データで話せる状態をつくる

賃料の話をテナントに切り出す前に、根拠となる材料を揃えます。感覚や希望ではなく、データで話せる状態をつくることが、話し合いを穏当に進める最大のコツです。

① 周辺の募集事例・成約水準

同じエリア・同じ規模・近い築年の物件が、今いくらで募集され、いくらで決まっているか。この比較資料が土台になります。募集賃料と実際の成約水準は異なることも多いため、両方を見ることが大切です。

② 自分の物件の競争力の整理

駅からの距離、視認性、設備の状態、管理の質。相場と比べる際は、自分の物件がその相場帯の中でどの位置にいるかを冷静に把握します。強みが多ければ増額の根拠になり、弱みがあれば「据え置きが妥当」という判断材料にもなります。

③ テナントの状況の把握

テナントの事業が好調か、その場所がテナントにとってどれだけ重要か(移転しにくい業態か)も、話し合いの進め方に影響します。内装に大きく投資している店舗や、顧客が場所に付いている業態は、移転のハードルが高い分、話し合いで折り合える余地が大きい傾向があります。

なお、相場資料は「作った時点」から古くなっていきます。打診の直前に最新の募集状況を確認し直すこと、そして口頭ではなく一枚の比較表として渡せる形にしておくことで、説得力は大きく変わります。テナント側も社内で検討する際に、資料があれば話を進めやすくなるためです。

例えばSkrrsでは、周辺の募集事例と成約水準を一枚の比較表に整理してお渡しする形をとっています。ご自身で資料を用意する場合も、「募集中の物件」「最近決まった水準」「自物件の位置づけ」の3点がひと目で並ぶ形に整えることを意識してみてください。

4. 増額の進め方——更新の6ヶ月前から始める段取り

実際の進め方を、時系列で整理します。

時期やること
更新12ヶ月前〜周辺相場の資料収集・自物件の競争力整理を始める
更新6ヶ月前見直し方針を決める(増額幅・据え置きの判断)。管理会社・仲介会社に相談するならこの時期
更新4〜6ヶ月前テナントへ書面で打診。根拠資料を添えて、対面での説明の場を設ける
更新2〜4ヶ月前話し合い。金額だけでなく、契約期間・条件面も含めて調整する
更新まで合意内容を更新契約書に反映。折り合わない場合の対応を検討する

ポイントは、書面と対面を組み合わせることです。書面だけで一方的に通知すると、金額の妥当性に関わらず心証を損ねやすくなります。根拠資料を添えた書面で打診し、対面で丁寧に説明する。この順番が、合意に至る確率を大きく左右します。

また、打診の書面には「なぜ今なのか」を一文入れることをおすすめします。「周辺の募集水準と開きが出てきたため、更新のタイミングでご相談させてください」——理由と相談姿勢が伝わる一文があるだけで、通知ではなく相談として受け取ってもらえます。増額の成否は、この最初の一通の印象で半分決まると言っても過言ではありません。

早めの打診が必要なのは、テナント側にも社内の手続きがあるためです。店舗であれば本部の承認、事務所であれば経営会議や翌期予算との調整を経て、ようやく回答が返ってきます。回答までの時間を見込まずに打診が遅れると、協議が更新日に間に合わず、結論を持ち越すことになりかねません。

5. 「増額」と「入替」——数字で比べる判断軸

什器が撤去された空のテナント区画
空室の期間は、賃料収入がゼロになる期間でもある

「今のテナントに増額をお願いするより、退去してもらって高い賃料で新しいテナントを入れた方が得では」と考える方もいらっしゃいます。しかしこの比較は、見えないコストまで含めて計算する必要があります。

項目既存テナントの増額テナント入替
賃料収入増額分がそのまま上乗せ新規賃料次第(高くなるとは限らない)
空室期間発生しない募集〜入居まで数ヶ月の賃料がゼロに
募集コストかからない仲介手数料・広告費がかかる
工事負担かからない原状回復の調整・次の募集に向けた修繕が発生しうる
フリーレント不要新規テナント誘致のため数ヶ月分求められることがある
確実性話し合い次第だが読みやすい決まるまで読めない

例えば月額20万円の区画で、入替によって月額25万円のテナントが見込めるとしても、空室が6ヶ月続けば約120万円の収入がなくなり、募集コストやフリーレントを含めると、差額の月5万円を回収するのに数年かかる計算になることも珍しくありません。多くのケースで、既存テナントとの話し合いによる見直しの方が、トータルの収益では堅実です。

なお、事業用の賃貸借では、オーナー側の希望だけでテナントに退去を求めることは基本的にできない仕組みになっています。「高く借りてくれる相手がいるから」という理由での入替は、想像以上にハードルが高い——この前提を知っておくことも、判断を誤らないために重要です。

6. 賃料本体だけではない——共益費・契約条件の見直し

賃料の増額は心理的なハードルが高い一方、賃料本体以外の項目は、比較的話し合いを進めやすい領域です。更新のタイミングでは、次の項目もあわせて点検します。

「賃料は据え置く代わりに、共益費を実費水準に合わせる」という着地は、テナントにとっても受け入れやすく、オーナーの収支改善にもつながる現実的な選択肢です。金額の話を賃料一本に絞らないことで、話し合いの自由度が大きく上がります。

共益費の見直しを打診する場合は、清掃・設備点検・光熱費など、実費の内訳を示せるように準備しておきます。「上がったから上げたい」ではなく「実費がこう変わっている」という説明ができると、賃料本体の増額よりも格段に受け入れられやすくなります。

7. 据え置きが正解になるケース

見直し=増額ではありません。次のようなケースでは、据え置きを積極的に選ぶ判断が合理的です。

大切なのは「検討したうえで据え置く」ことです。何も調べずに据え置きが続くのと、相場を確認したうえで戦略的に据え置くのとでは、数年後の収益に大きな差が生まれます。

据え置きを選んだ場合は、確認した相場と判断の理由を記録に残しておきましょう。次の更新で見直しを打診する際、「前回は相場と釣り合っていたため据え置いた」という経緯を示せると、場当たりな増額ではないことが伝わり、話し合いの土台が安定します。

8. テナントとの関係を壊さない伝え方

話し合いの前に整えられた会議テーブルと2組の書類
伝え方の準備が、合意の確率を左右する

増額の打診で最も大切なのは、金額そのものよりも伝え方です。実務でうまくいきやすい進め方には、共通点があります。

テナントにとっても、移転には内装工事・引越し・顧客への告知など大きなコストがかかります。「妥当な増額であれば、移転するより残る方が合理的」という判断が働く範囲を見極めて提案することが、双方にとって良い着地につながります。

打診のあと、すぐに返答が来なくても、催促を重ねるのは避けたいところです。テナント側にも社内で検討する時間が要ります。打診の書面に「◯月頃までにお考えをお聞かせください」と目安を添えておき、その時期までは静かに待つ。この余白が、相手の納得の質を高めます。

9. 話し合いがまとまらないときに知っておくこと

誠実に進めても、折り合えないことはあります。その場合に備えて、次の3点を知っておくと落ち着いて対応できます。

実際には、根拠資料をきちんと揃えて丁寧に進めたケースの多くは、話し合いの範囲で着地します。手続きの存在は「最後の備え」として知っておく程度で十分です。なお、具体的な進め方で判断に迷う場面では、不動産会社によるデータ面の支援に加えて、弁護士など専門家への相談も選択肢になります。

まとめ:満室オーナーの賃料見直しチェックリスト

物件管理のバインダーとビルの鍵束を置いた窓辺の机
満室の今こそ、次の更新への仕込みの期間
確認項目チェックの観点
契約更新日全テナントの更新日を一覧にし、12ヶ月前から逆算できているか
周辺相場近隣の募集事例・成約水準を把握しているか
自物件の競争力相場帯の中での自物件の位置を客観視できているか
共益費・契約条件賃料本体以外の条件も現在の水準と合っているか
増額と入替の試算空室期間・募集コストまで含めて比較したか
伝え方の設計根拠資料・複数の選択肢・対面説明の準備があるか

満室は、何もしなくていい状態ではなく、「攻めの準備ができる貴重な期間」です。次の更新まで時間があるオーナー様ほど、今から材料を揃えることで選択肢が広がります。

よくあるご質問

Q. 更新のたびに賃料を上げてもよいものですか?

上げること自体に制限はありませんが、根拠が伴わない増額はテナントの納得を得にくく、関係悪化や退去リスクにつながります。周辺相場との乖離が明確なタイミングで、資料を添えて打診するのが実務的です。相場と釣り合っているなら、据え置きも立派な判断です。

Q. テナントが増額に応じない場合、退去してもらえますか?

賃料の話し合いがまとまらないことを理由に、オーナー側から一方的に退去を求めることは基本的にできません。事業用の賃貸借はテナントの事業継続を保護する仕組みになっており、話し合い・調停といった段階を踏むことになります。だからこそ、感情的な対立を避け、データに基づいた丁寧な進め方が重要です。

Q. どのくらいの増額幅が妥当ですか?

物件・エリア・契約経緯によって大きく異なるため、一概には言えません。目安になるのは「周辺相場との差」です。差が大きい場合でも、一度に埋めるのではなく数回の更新に分けて段階的に近づける方が、合意を得やすい傾向があります。まずは相場との差を正確に把握することから始めてください。

Q. 管理会社や仲介会社には何を頼めますか?

周辺相場の調査資料の作成、増額と入替の収支比較、打診のタイミングや進め方の段取りといった、判断材料の整備を支援してもらえます。最終的な賃料の合意はオーナー様とテナント様の間で行うものですが、材料が揃っているかどうかで話し合いの質は大きく変わります。

Q. 相場を確認したいだけでも相談できますか?

ご相談いただけます。「今の賃料が相場と釣り合っているか知りたい」という段階のご相談こそ、実は最も価値があります。確認した結果「据え置きが妥当」となれば、それも収穫です。増額ありきではなく、データを見てから方針を決める順番をおすすめします。

Skrrsでは、所有物件の賃料が現在の相場と釣り合っているかを確認したいオーナー様のご相談を承っています。周辺の募集状況・成約水準のデータを基に、見直す余地があるのか、据え置きが妥当なのかを含めてご一緒に整理します。満室の物件こそ、一度確認してみてください。

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