オフィス移転の費用——内訳の全体像と「総額」の考え方
2026-11-04 Skrrs 編集部

「移転の予算を組んでみたのですが、これで足りているでしょうか」。オフィス移転を検討されている企業のご担当者から、そう言って一覧表をお持ちいただくことがあります。多くの場合、そこに並んでいるのは新しい拠点にかかるお金だけです。
移転の費用は、借りる側の計算だけでは完結しません。いまの拠点を返すためのお金があり、二つの拠点が重なる期間のお金があります。さらに厄介なのは、項目を足し合わせて予算内に収まっていても、お金が出ていく順番のせいで途中の資金繰りが苦しくなる点です。
この記事では、移転費用を「入口・期間中・出口」という三つの時点に分けて整理します。相場の金額は示しませんが、どの項目がいつ発生し、どの見積が遅れて出てくるのか、資金の山がどこにできるのかという構造をお渡しします。読み終える頃には、自社の移転を「総額」と「順番」の両面から捉え直せるはずです。
1. 「新オフィスの初期費用」だけで予算を組むと、なぜ足りなくなるのか
この章では、予算が崩れるときの典型的な形を先に見ておきます。原因は見積の甘さではなく、集計する対象の取り違えにあることがほとんどです。
ご相談で最初に出てくるのは、たいてい新しい物件の初期費用です。保証金、前家賃、仲介手数料、火災保険料、そして内装工事。見積書に金額が書かれているため集計しやすく、そのまま予算表の形にできます。
しかしこれは一部でしかありません。抜け落ちているのは、いまの拠点を返すための費用と、二つの拠点を同時に持つ期間の費用です。この二つは新拠点の見積書には現れません。請求してくる相手が違い、金額が出るタイミングも違うからです。
つまり予算が崩れるのは、見積もりが甘かったからではなく、集計の対象にそもそも入っていなかったからです。判明するのは新拠点の契約を結んだ後であることが多く、その時点では修正の余地がほとんど残っていません。
もうひとつの取り違えは、「移転にかかる費用」と「手元から出ていくお金」を同じものとして扱うことです。前者に、返ってくる預託金は含まれません。後者には含まれます。会計上の費用と資金繰りを混ぜると、どちらの意味でも実態からずれた数字ができます。この記事で「総額」と呼ぶのは、その両方です。
2. 費用を三つの時点に分ける——入口・期間中・出口

移転費用を漏れなく捉える簡単な方法は、項目名で分類するのをやめて、いつ発生するかで分けることです。この章で全体の地図を作ります。
入口は、新しい拠点を借りて使える状態にするまでの費用です。契約に関わるお金と、空間を仕上げるお金が柱になります。情報が手に入りやすく、早い段階で概算が出せる領域です。
期間中は、新旧の拠点を同時に持っている間の費用です。項目は少ないのですが、重なる期間の長さがそのまま金額になります。
出口は、いまの拠点を返すための費用です。原状回復が中心で、什器や書類の処分、解約予告の扱い方によっては使わない期間の賃料まで含まれます。金額が最後まで確定しない領域です。
| 時点 | 何にかかるお金か | 見積が固まる時期 | 見落とされやすいもの |
|---|---|---|---|
| 入口(新拠点) | 契約時の預託金・前家賃・仲介手数料・保険料・内装工事・什器・通信 | 早い。物件が決まれば概算が出せる | 通信回線の工事費と工期/看板や表札/搬入経路の都合で生じる追加費用 |
| 期間中(重なり) | 二拠点分の賃料と共益費、光熱費や警備などの基本料 | 重なりの日数が決まるまで確定しない | 工程の遅れで重なりが延びた分/旧拠点の返却日を動かせない制約 |
| 出口(現拠点) | 原状回復工事・什器や書類の処分・搬出・使わない期間の賃料 | 遅い。立会いと仕様の確認を経て固まる | 貸主指定の施工者による工事/天井裏や床下の復旧/残置物の扱い |
この表で金額より重要なのは、三列目の「見積が固まる時期」です。遅く固まる項目ほど、予算のなかに不確実な塊として最後まで残ります。予備費をどこに厚く置くかは、金額の大きさではなくこの確定の遅さで決まります。三つの時点は独立してもいません。原状回復は荷物がすべて出た後にしか着手できず、工期が延びれば返却日が動き、期間中の費用が増えます。
3. 入口の費用——契約に関わるお金と、空間を仕上げるお金

入口は情報が手に入りやすい領域です。この章では集計しやすい項目を確認したうえで、漏れがちな付随費用に重心を置きます。
契約に関わるお金は、保証金や敷金といった預託するお金、前家賃、仲介手数料、火災保険料、保証会社を利用する場合はその費用です。事業用の保証金は住居用より大きな設定になるのが一般的で、賃料の数ヶ月分から十数ヶ月分という幅で示されることが多く、物件の規模や貸主の考え方で変わります。
空間を仕上げるお金は、内装工事が中心です。間仕切り、照明、電気配線、空調の増設、床や壁の仕上げ、消防設備の調整。物件がスケルトンなのか、前の入居者の内装が残っているのかで金額の桁が変わります。物件選びの段階で費用構造そのものが決まります。
見積書に現れにくい付随費用
予算からこぼれやすいのは、賃料でも工事費でもない周辺の費用です。
- 通信回線の新設・移設。工事の可否と工期は建物側の条件に左右され、金額より日程が問題になることが多い
- 電話番号やネットワーク機器の設定変更、入退室管理や複合機の移設・再設定
- 什器。既存のものを運ぶのか、新しく揃えるのか、足りない分だけ買い足すのか
- 引越そのもの。搬出・搬送・搬入に加え、建物の養生、休日や夜間の割増、不用品の処理
- 看板・表札・郵便物の転送、名刺や封筒など印刷物の刷り直し
- 移転にともなう登記や各種の届出、取引先や金融機関への通知
一つひとつは小さくても、項目数が多いため合計すると無視できません。発注先がばらばらで、社内でも担当が分かれていることが多く、全体像が誰にも見えないまま進みがちです。移転の担当を決めたら、まずこれらを一枚の表に並べると抜けが見つかります。
なかでも通信回線は、費用より工期で予算に影響します。開通が間に合わなければ、その分だけ旧拠点を使い続けることになるからです。物件を絞り込む段階で回線の状況を確認してください。
什器と引越には決める順番があります。何を捨てるかを先に決めないと物量が確定せず、正確な見積が出ません。裏を返せば、処分の判断は自社の裁量がいちばん大きく効く部分です。早く決めるほど、引越と廃棄の両方が下がります。
4. 出口の費用——返すためのお金は、遅れてやってくる

出口の費用が厄介なのは、金額の大きさより確定する時期の遅さです。この章では、なぜ遅れるのかと、それにどう備えるかを扱います。
中心は原状回復です。借りたときの状態に戻して返すという考え方で、事業用の賃貸では借主の負担範囲が住居用より広く設定されているのが一般的です。自分たちが行った工事の撤去だけでなく、経年による劣化の一部まで借主負担とされている契約もあります。
見積が遅れる理由は二つあります。第一に、どこまで戻すのかという仕様が契約書の文言だけでは決まらず、貸主や管理会社との現地立会いを経て対象範囲がようやく具体化するからです。第二に、施工者が貸主の指定である場合、借主の側から早めに見積を取りに行けません。
結果として、原状回復の金額は移転の判断がすべて終わった後、つまり新拠点の契約を結び、内装工事も発注した後に出てきます。そこで想定を超える金額が出ても、退去を取りやめる選択肢はもう残っていません。これが「遅れてやってくる」ということの実質的な意味です。
出口にはもう一つ、処分の費用があります。什器、書類、保管していた備品や資材。廃棄物として出すには相応の費用がかかり、量が多ければ搬出の日程も押さえる必要があります。移転先に持っていかないものほど早く判断できるはずですが、実際には引越の直前に慌てることが多い部分です。
そして解約予告です。事業用の賃貸では、退去の意思を一定期間前に通知する取り決めが置かれているのが通常で、半年前という設定も見られます。この期間の読み違いは、そのまま使わない拠点の賃料に変わります。失敗の前兆として分かりやすいのは「原状回復の話が一度も出ていない」という状態です。移転先の内装プランの議論だけが盛り上がっているなら、出口の費用が予算に入っていないサインです。
5. 期間中の費用——二つの拠点が重なる期間をどう設計するか

重なりの期間は、移転費用のなかで唯一、自社の設計で大きく動かせる部分です。この章では、短くする方向と長くする方向の代償を並べます。
新拠点の賃料が発生し始めてから旧拠点を返却するまで、賃料は二重に発生します。この一点だけを見れば、重なりは短いほどよいことになります。
ところが重なりをゼロに近づけると、負担は別のところへ移ります。内装工事の日程に余裕がなくなり、引越が一日で終わらなかったときの逃げ場がなくなります。通信回線の開通が遅れれば業務が止まります。削って浮いた賃料以上のものを、別の形で払うことになりかねません。
逆に重なりを長く取れば安全ですが、その分は確実に賃料として出ていきます。余裕を取ったつもりが段取りが緩み、結局ぎりぎりまで動かず費用だけが増えるという形もあります。
| 重なりの取り方 | 向いている状況 | 抱えることになるリスク |
|---|---|---|
| 重なりを最小にする | 新拠点の工事が軽く、什器の持ち込みも少ない。引越が休日一回で完結する見込みがある | 工程が一つ遅れると全体が押す。業務が止まる日数を読めない。原状回復の着手も後ろへずれる |
| 数週間の重なりを取る | 内装工事があり、部署ごとに段階的に移る余地がある。通信回線の開通日が読み切れない | 重なり分の賃料が発生する。旧拠点の返却が延びれば追加も出る |
| 月単位の重なりを取る | 拠点の統合や大規模な工事をともなう。原状回復に時間がかかる見込みがある | 費用が大きい。長く取ったことで段取りが緩み、余裕を使い切ることがある |
判断の軸は金額ではなく、業務を何日止められるかです。土日を挟んで移動できるのか、部署ごとに分けて移れるのか、サーバーや電話が止まると何が起きるのか。ここを先に決めると必要な長さは絞られます。金額から決めると、たいてい足りない側に倒れます。
なお、重なりの期間には交渉の余地もあります。新拠点については工事期間を見込んだフリーレントを相談できる場合があり、旧拠点についても返却日を原状回復の工程と合わせて調整できることがあります。二つの相手と同時に進める必要があるため、日程の調整は早く始めるほど選択肢が残ります。
6. 総額と、お金が出ていく順番は別の問題
ここまでで費用の全体像は揃いました。この章では、同じ総額でも資金繰りが苦しくなる理由、つまり時間差の話をします。手元が厳しくなるのは、たいてい金額ではなく順番が原因です。
典型的な形はこうです。新拠点の契約時に保証金と前家賃を預け、仲介手数料と保険料を払う。内装工事の着手金を払い、什器を買い、引越の費用を払う。ここまでが数ヶ月のうちに集中します。
一方、旧拠点に預けていた保証金が戻るのは、退去して原状回復工事が終わり、精算が済んだ後です。退去から数ヶ月後という設定も見られます。原状回復の費用を保証金から差し引いて精算する契約では、戻る金額そのものが最後まで確定しません。
つまり、出ていくお金が先で、戻ってくるお金が後です。「預けたものは戻るので最終的な負担は小さい」と言えたとしても、その間の数ヶ月は二拠点分の預託金を同時に外に置いている状態になります。ここが資金繰りでもっとも張り詰める局面です。
- 新拠点の契約時——保証金や敷金の預託、前家賃、仲介手数料、火災保険料
- 契約の前後——内装工事の着手金、通信回線の申込にともなう費用
- 引越の前後——内装工事の残金、什器の購入費、引越費用、処分費
- 重なりの期間——二拠点分の賃料と共益費、光熱費などの基本料
- 旧拠点の返却後——原状回復工事の請求
- さらにその後——旧拠点の保証金の精算と返還
この並びを書き出すと、月ごとの資金の山が見えます。山は新拠点の契約時と引越の前後の二つにでき、戻ってくるお金はいちばん後ろにあります。形を先に知っておけば、いつ資金を厚くしておくべきかを事前に判断できます。
もう一点。旧拠点の保証金が戻ることを前提に新拠点の預託金を用意する計画は、順番が逆であるため成り立ちません。予算表を金額だけで組んでいると、この当たり前が見えなくなります。
7. 予備費と、確定の順番——移転費用を固めていく手順
最後に、ここまでの内容を進め方に落とします。鍵になるのは、確定の早い項目と遅い項目を分けて扱うことです。
移転の予算は一度に確定しません。新拠点の契約に関わる費用が最も早く固まり、内装工事はプランが決まった時点でおおよそ見えます。引越は物量が確定してから、通信は工事日程が決まってから。そして原状回復は、いちばん最後です。
この順番を踏まえると、予備費をどこに置くべきかがはっきりします。すでに確定している項目に予備費は要りません。厚く置くのは、遅く固まる三つ——原状回復、通信まわり、重なり期間の延長分です。割合は工事の規模で幅があるため一律には言えませんが、決める前に「何に対する備えか」を書いておくと妥当性を検証できます。
進める順番
後戻りできない項目を先に確認する、という原則で並べると次のようになります。
- 現在の賃貸借契約書を読む(解約予告の期間、原状回復の負担範囲、保証金の返還時期)
- 業務を何日止められるかと、移転の方法(一括か段階的か)を決める
- 必要な重なり期間の目安を出す
- 新拠点の条件を固め、入口の費用を概算する
- 処分するものを決め、そのうえで引越と廃棄の見積を取る
- 原状回復について、貸主や管理会社に確認できる範囲を早めに問い合わせる
- 月別の資金の出入り表を作り、山の位置を確認する
- 予備費を、遅く固まる三つの項目に紐づけて置く
順番が大切なのは、後戻りできない項目があるからです。解約予告を出した後に新拠点が決まらなければ、行き先のないまま退去日が近づきます。逆に新拠点の契約を先に結んで解約予告が遅れれば、重なりが長くなります。この二つの日付の関係が、移転費用でもっとも大きな金額を左右します。
例えばSkrrsでは、物件のご紹介と内装の設計・工事の両方をお手伝いしているため、新拠点の工事日程と旧拠点の返却日を一枚の表に並べて、重なり期間のご相談をいただくことがあります。窓口が分かれていると、この突き合わせが誰の担当でもなくなりがちです。
社内で判断を仰ぐときも、確定した金額・概算・予備費を分けて示しておくと後の説明が要りません。「総額いくら」の一本で稟議を通すと、後から出た原状回復の請求が予算超過として扱われてしまいます。
よくあるご質問
Q. 移転費用の総額は、月額賃料の何ヶ月分くらいを見ておけばよいですか。
一律の目安を申し上げるのは難しいところです。内装工事の規模、原状回復の範囲、重なり期間の長さによって大きく変わり、同じ面積の移転でも差が出ます。倍率の目安を探すより、三つの時点それぞれについて自社の項目を書き出し、確定している金額と未確定の項目を分けるほうが実態に近づきます。未確定が多い段階では、幅を持った数字のまま社内で共有しておくほうが安全です。
Q. 解約予告はいつ出すのが適切ですか。
契約で定められた予告期間から逆算するのが出発点ですが、実務では新拠点の契約が成立してから出すのが基本的な考え方です。予告期間が長い契約の場合は、探し始める時期そのものを前倒しする必要があります。予告を出した時点で退去日が確定し、そこから原状回復の工程が逆算されるため、この一手が移転全体の日程を固定します。出す前に、新拠点側の工事日程と引越の見通しが立っているかを確認してください。
Q. 保証金は移転費用に含めて考えるべきですか。
二つの見方を分けて持つのが実務的です。費用としては、返還される部分は最終的な負担に含まれません。しかし資金繰りとしては、契約時に確実に出ていくお金であり、戻るのは退去から数ヶ月後です。予算表を作るときは「その月に出ていく金額」と「最終的に負担する金額」の二列を並べておくと、どちらの意味でも判断でき、社内の説明でも誤解が生まれにくくなります。
Q. 原状回復の見積が高いと感じたとき、どうすればよいですか。
まず、契約書に定められた借主の負担範囲と、見積の対象範囲が一致しているかを照らし合わせてください。入居時の状態を示す資料が残っていれば、どこからが自分たちの工事によるものかを整理できます。そのうえで、仕様や工法について説明を求めるという進め方になります。金額の交渉そのものより、範囲の確認が先です。話が折り合わない場合は、賃貸借の紛争に詳しい専門家へ相談する道もあります。
Q. 費用を抑えるうえで、いちばん効果が大きいのはどこですか。
自社の裁量が大きく、かつ金額の幅も大きい部分です。具体的には、内装をどこまで造り込むかという仕様の決め方、什器を持っていくか買い替えるかの判断、処分するものをどれだけ早く決められるか、そして重なり期間の長さの四つです。逆に、契約で定められた預託金の額や原状回復の負担範囲は、後から動かせる余地が小さい部分です。抑える努力は、動かせるところに集中させるほうが結果につながります。
まとめ
オフィス移転の費用は、新しい拠点の見積書だけを見ていても全体が見えません。入口・期間中・出口という三つの時点に分けて並べ直すと、抜け落ちていた項目が姿を現します。とくに出口の費用は確定がいちばん遅く、判明したときには選択肢が残っていません。
そのうえで、総額と資金の出入りの順番は別に扱ってください。出ていくお金が先で戻ってくるお金が後という構造は変えられませんが、知っていれば準備できます。月別の出入り表を一枚作るだけで、いつ資金を厚くしておくべきかが見えます。
そして、確定の遅い三つに予備費を紐づけること。ここまでできれば、移転の予算は「足りるかどうか分からない数字」から「どこが不確実かを説明できる数字」に変わります。
Skrrs株式会社は、事業用不動産の総合パートナーとして、東京都・神奈川県・埼玉県を中心に、オフィスや店舗の物件探し、内装の設計・工事、従業員の方の住宅や社宅のお手配をご一緒しています。移転の費用は「この項目が抜けていないか」を一緒に確認するところからでも構いません。ご相談は無料です。仲介手数料は、物件のご契約が成立した際に、契約時の初期費用の一部として法令の範囲内で申し受けます。