オフィス移転のスケジュール——6ヶ月前から逆算する段取り
2026-09-07 Skrrs 編集部

「いい物件が見つかったら、移転しようと思っています」。オフィス移転のご相談で、こうお話しされる方は少なくありません。しかし実務の順序から言うと、移転計画の起点は物件探しではありません。今入っているオフィスの賃貸借契約、その中の「解約予告期間」の確認です。
事業用オフィスの契約では、解約の6ヶ月前までに書面で予告することを求める契約が多く見られます。つまり、理想の物件が今日見つかっても、現オフィスの契約条件によっては、半年間は二重に賃料を払うか、入居を待つかの選択を迫られることになります。段取りを誤ると、移転はコストの塊になります。
この記事では、6ヶ月前から入居までの逆算タイムラインを軸に、各段階でやるべきこと、二重賃料の抑え方、内装・通信・引越しなど関係者の手配順、そしてありがちな遅延要因までを整理します。移転を「思い立ってから慌てるイベント」ではなく「逆算で管理するプロジェクト」に変えるための下敷きとしてお使いください。
1. 移転は「物件探し」ではなく「解約予告」から始まる
最初にやるべきことは、現在の賃貸借契約書を開くことです。確認するポイントは主に4つあります。解約予告の期間と方法(書面の様式が決まっている場合があります)、契約期間と更新日、原状回復の範囲と明け渡しの条件、そして預けている敷金・保証金の返還条件です。
特に重要なのが解約予告期間です。オフィスでは6ヶ月前予告の契約が多く、小規模な物件では3ヶ月前予告なども見られます。この期間が、移転プロジェクト全体の時計を決めます。予告を出した瞬間から退去日は確定に向かうため、「新オフィスの入居日」と「現オフィスの退去日」をどう重ねるかという設計が、移転コストの大部分を左右します。
もうひとつ見落としやすいのが、定期建物賃貸借(定期借家)かどうかです。定期借家の場合、中途解約の可否や条件が普通借家と異なることがあり、想定していたタイミングで退去できるとは限りません。契約の種類は、計画の前提として最初に確認しておくべき事項です。
契約の更新日との位置関係も、計画に影響します。更新のタイミングで更新料が発生する契約の場合、更新直後に解約予告を出すと、更新料の負担が実質的に無駄になってしまいます。移転の検討を始める際は、次の更新日がいつかを確認し、そこから逆算して動き出す時期を決めると、余計な出費を避けやすくなります。
2. 逆算タイムライン——6ヶ月前から入居まで

全体像を先に示します。以下は、解約予告6ヶ月の契約を前提とした標準的な逆算表です。物件の規模や内装工事の量によって前後しますが、各タスクの順序と依存関係はほぼ共通です。
| 時期の目安 | 主なタスク |
|---|---|
| 6ヶ月以上前 | 現契約の確認(解約予告・原状回復条件)、移転の目的と予算の整理、要件定義 |
| 6〜4ヶ月前 | 物件探し・内見、候補物件の比較、内装の概算見積もり |
| 4〜3ヶ月前 | 入居申込み・審査、条件交渉、新オフィスの契約締結、現オフィスの解約予告 |
| 3〜2ヶ月前 | 内装設計の確定、内装工事の発注、通信回線の申込み、引越し会社の選定 |
| 2〜1ヶ月前 | 内装工事、什器・家具の発注、社内外への移転案内の準備 |
| 1ヶ月前〜入居 | 通信・ネットワークの開通、引越し、レイアウト確定、業務開始 |
| 入居後〜明け渡し | 旧オフィスの原状回復工事、明け渡し、敷金精算、住所変更の各種届出 |
この表で注目していただきたいのは、最後の行です。旧オフィスの原状回復工事は、退去(明け渡し)日までに完了させることを求める契約が一般的です。つまり、引越しで荷物を出した後、明け渡し日までの間に工事期間を確保する必要があります。ここを忘れると、退去日直前に工事が間に合わないという事態になりかねません。
逆算表を使う際のコツは、全タスクを均等に扱わず、後戻りできない決定と、リードタイムの長い工程に印を付けておくことです。解約予告の提出、内装設計の確定、通信回線の申込みの3つは、遅れがそのまま全体の遅れに直結する要注意ポイントです。週次でこの3点だけを確認する運用でも、スケジュール管理の効果は十分にあります。
3. 要件定義——広さ・立地・予算を先に固める
物件探しを始める前に、要件を言葉にしておくことをお勧めします。実務でよく使う整理の軸は、面積(現在の人数と採用計画から逆算した必要坪数)、立地(通勤・来客・採用への影響)、予算(賃料だけでなく共益費・初期費用・内装費を含めた総額)、そして働き方(出社率、会議室の数、フリーアドレスの採否)です。
要件が曖昧なまま内見を重ねると、「良さそうな物件」に出会うたびに基準が揺れ、時間だけが過ぎていきます。逆に、要件が明確であれば、候補は自然に絞れ、内見も条件交渉も速く進みます。移転の目的(手狭の解消、コスト削減、採用強化、拠点統合など)を一文で言えるようにしておくと、判断に迷ったときの拠り所になります。
このタイミングで、内装のイメージと概算予算も並行して考え始めるのが理想です。内装費は物件の引き渡し状態によって大きく変わるため、物件比較の段階から内装の視点を入れておくと、契約後に「想定外の工事費」で計画が崩れることを防げます。
面積の要件を考える際は、現在の人数だけでなく、契約期間中の採用計画まで含めて見積もることが大切です。移転して1年で手狭になれば、また移転コストがかかります。逆に、出社率が下がっているのに従来の基準で広さを決めると、使わない床に賃料を払い続けることになります。働き方の実態に合わせた適正面積の見極めが、移転の成否を分ける論点のひとつです。
例えばSkrrsでは、物件のご紹介と内装のご相談を同じ窓口で受ける形をとっており、候補物件の比較段階から内装の概算の見立てを添えてお伝えしています。物件選びと内装費の検討を分業にしないことが、この段階の精度を上げる近道だからです。
4. 物件探しから契約まで——審査と交渉の時間を見込む
候補物件が絞れたら、内見・比較を経て入居申込みに進みます。ここで見落とされがちなのが、申込みから契約までにかかる時間です。事業用物件では、貸主による入居審査(決算書などの提出を求められるのが一般的です)、保証会社の審査、条件交渉、契約書の確認というステップが入り、数週間から1ヶ月程度かかることも珍しくありません。
審査をスムーズに通すには、書類の事前準備が効きます。登記事項証明書、決算書、会社案内といった定番の書類を物件探しの段階で揃えておくと、申込みから審査までの時間を短縮でき、人気物件で複数の申込みが並んだ際にも有利に働きます。よくあるご相談では、書類の準備に時間がかかっている間に希望物件が他社で決まってしまった、というケースが実際にあります。
条件交渉では、賃料や敷金だけでなく、フリーレント(入居後一定期間の賃料免除)と契約開始日が重要な論点になります。後述する二重賃料の負担は、この2つの調整でかなり変わります。内装工事の期間を見込んで、契約開始からしばらくの賃料をどう扱うかは、申込み段階から相談しておきたいポイントです。
新オフィスの契約が固まったら、現オフィスの解約予告を出します。この順序を守ることで、「退去日は決まったのに行き先がない」というもっとも苦しい状況を避けられます。
5. 関係者の手配順——内装・通信・引越し・届出

契約後は、複数の業者・関係者が並行して動きます。手配の順序を誤ると全体が遅れるため、依存関係で整理しておきます。
- 内装会社:もっとも早く。設計に時間がかかるため、可能なら物件契約前の概算段階から相談を始める
- 通信回線・ネットワーク:内装設計と同時期に申込み。回線工事は申込みから開通まで時間がかかることがあり、ビルによっては配線ルートの調整も必要
- 什器・家具:内装レイアウト確定後すぐに発注。納期の長い家具は前倒しで
- 引越し会社:1〜2ヶ月前までに選定。繁忙期は予約が取りにくいため早めに
- 登記・税務・社会保険などの住所変更手続き:移転後に期限が定められているものが多いため、事前にリスト化
- 取引先・顧客への案内、名刺・封筒・Webサイトの住所変更:移転日が確定した段階で準備開始
この中で全体の律速になりやすいのが、内装と通信です。内装は設計の確定が遅れると後工程がすべてずれます。通信は開通が入居日に間に合わないと、オフィスはできたのに仕事ができないという事態を招きます。この2つだけは、早すぎると感じるくらいの時期に動き始めることをお勧めします。
引越しそのものについても、当日の段取り表(什器の搬出順・新オフィスでの配置図・立ち会い者)を引越し会社と事前に共有しておくと、当日の混乱が大きく減ります。サーバーやネットワーク機器の移設は業務への影響が大きいため、休日をまたぐ日程で計画するのが実務では一般的です。
6. 二重賃料の発生と抑え方

移転では、新旧2つのオフィスの賃料が重なる期間が生じます。新オフィスは内装工事のために入居前から契約が始まり、旧オフィスは明け渡しまで賃料が続くためです。この二重賃料は移転コストの中でも大きな割合を占めますが、工夫の余地があります。
抑え方の第一は、新オフィス側のフリーレント交渉です。内装工事期間に相当する期間の賃料免除を、申込み段階から相談します。貸主にとっても、賃料単価を下げずに条件を調整できるため、応じてもらいやすい項目です。
第二は、旧オフィス側の退去日の設計です。原状回復工事の期間を正確に見積もり、引越しから明け渡しまでの空白期間を必要最小限にします。原状回復の見積もりを早めに取ることが、退去日を攻めて設定するための前提になります。
第三は、スケジュール全体の圧縮です。内装設計の確定が早いほど、工事も開通も前倒しでき、重なり期間は短くなります。二重賃料は「交渉」と「段取り」の両輪で抑えるもの、と捉えていただくのが実務的です。
なお、二重賃料をゼロに近づけようとして日程を詰めすぎると、今度は引越しや工事の遅れがそのまま業務停止につながる、余裕のない計画になります。重なり期間は「無駄なコスト」ではなく「計画の保険」という面もあるため、どこまで許容するかを予算として先に決めておくと、判断がぶれにくくなります。
なお、フリーレント付きの契約には、短期解約の際に免除分の返還を求める特約が付くのが一般的です。交渉で得た条件が別の義務とセットになっていないか、契約書の記載で確認しておきましょう。
7. ありがちな遅延要因——先回りできるものばかり
最後に、移転プロジェクトが遅れる典型的な要因を挙げます。いずれも珍しいトラブルではなく、事前に知っていれば先回りできるものです。
- 社内の意思決定の遅れ:レイアウトや内装仕様の決裁が滞り、工事の着工が後ろ倒しになる
- 入居審査・保証会社審査に想定より時間がかかる
- ビル側の工事区分・工事ルールの確認漏れ:工事可能な時間帯の制約や、指定業者の存在が後から判明する
- 通信回線の開通遅れ:申込みが遅く、入居日に間に合わない
- 什器・家具の納期遅れ:特注品や大量発注で納期が長期化する
- 旧オフィスの原状回復見積もりの取得遅れ:明け渡し日までに工事期間が確保できなくなる
共通するのは、「自社の決断の遅れ」と「第三者のリードタイムの見積もり不足」の2つに集約されるという点です。だからこそ、意思決定の期限をタイムラインに組み込み、リードタイムの長いもの(内装・通信・特注家具)から先に動く。この原則を守るだけで、移転の遅延リスクは大きく下がります。
実務的には、移転プロジェクトの責任者を社内で一人決め、週に一度のペースでタスクの進捗と決裁待ち事項を確認する体制をお勧めします。移転は多くの会社にとって数年に一度の出来事であり、担当者も不慣れなのが普通です。だからこそ、進捗を見える化する簡単な仕組みが、遅延の芽を早期に摘む役に立ちます。
よくあるご質問
Q. 解約予告は何ヶ月前が一般的ですか。
事業用オフィスでは6ヶ月前予告の契約が多く、小規模な物件では3ヶ月前予告なども見られます。契約書によって異なるため、移転を考え始めた時点でまず自社の契約書を確認することをお勧めします。予告の方法(書面の様式や提出先)も契約で定められている場合があります。
Q. 6ヶ月より短い期間で移転することはできますか。
物件や内装の規模によっては短い期間で実現できる場合もありますが、選べる物件が限られたり、二重賃料や割増費用が増えたりする傾向があります。特に内装工事と通信開通は圧縮しにくい工程です。やむを得ず短期で動く場合は、居抜きオフィスなど工事の少ない物件を中心に探すのが現実的です。
Q. 二重賃料は避けられますか。
完全になくすことは難しいものの、新オフィス側のフリーレント交渉と、旧オフィス側の退去日設計の組み合わせで、負担を大きく抑えられる場合があります。内装工事期間をどちらの賃料でカバーするかが焦点になるため、申込み段階から相談しておくことが有効です。
Q. 原状回復工事は退去日までに終えればよいのですか。
多くの契約では、明け渡し日までに原状回復を完了した状態で返すことが求められます。引越し後に工事期間が必要になるため、退去日から工事期間を逆算して引越し日を決める必要があります。原状回復の範囲と見積もりは、早い段階で確認しておくことをお勧めします。
Q. 移転にかかる費用にはどんなものがありますか。
大きくは、新オフィスの契約初期費用(敷金・礼金・仲介手数料など)、内装・設備工事費、什器・家具、引越し費用、旧オフィスの原状回復費用、二重賃料、そして印刷物やWebの住所変更などの細かな費用です。全体を一覧にして予算化すると、想定外の出費を減らせます。
まとめ

オフィス移転は、物件探しから始めると後手に回り、解約予告の確認から始めると主導権を握れます。現契約の条件を起点に、要件定義、物件探し、契約、内装、通信、引越し、原状回復までを一本のタイムラインに載せ、リードタイムの長い工程から先に動く。この逆算の型さえあれば、移転は十分に管理できるプロジェクトです。
二重賃料や遅延といった移転のリスクは、その多くが「知らなかった」ことから生じます。逆に言えば、段取りを知り、早めに動くだけで、コストは着実に抑えられます。
Skrrsは、東京都・神奈川県・埼玉県を中心に、オフィスの賃貸仲介と内装設計・工事を一貫してサポートしています。物件のご紹介だけでなく、現契約の確認ポイントの整理や移転スケジュールの設計からご一緒できますので、移転をお考えの段階で、どうぞお気軽にご相談ください。ご相談は無料です。