成約したあとも相談してよい——「かかりつけ不動産」の使い方
2026-11-03 Skrrs 編集部

「契約が終わったので、もうご連絡することもないですね」。引き渡しの日に、こう言っていただくことがあります。不動産会社とは物件が決まるまでの相手だと考えている方が、それだけ多いのだと思います。
けれども実務では、契約後のほうがご相談の種類は増えます。設備の不具合、人が増えたときの席の足りなさ、更新や賃料改定の通知、拠点の縮小、遠方から入社する方の住まい。どれも契約書の条件と建物の条件が絡むため、探していたときと同じ土地勘が要る話です。
この記事は、すでに事業用の物件を借りている方に向けて、契約したあとに相談してよい場面を時期の順に整理し、そのとき何を伝えると話が早く進むのかまでを扱います。読み終える頃には、「これは相談していい話なのだろうか」と迷って手が止まる時間が減っている状態を目指します。
1. 「契約が終わったら用は無い」という感覚はどこから来るのか
この章では、契約後の相談をためらわせている前提を先に外します。理由がはっきりすると、次の章から先が読みやすくなります。
ひとつは頻度の低さです。事業用の物件を借りる場面は、多くの会社にとって数年に一度あるかないかの出来事で、その一回で完結するものとして記憶されます。
もうひとつは、契約書を読み返す機会が無いことです。契約の直後は条件を細かく確認していたはずなのに、一年もすると更新の時期も解約予告の期間も即答できなくなります。手元にあるはずの情報が離れていくと、相談すべきかどうかの判断ができません。費用の見え方も一因ですが、これは最後の章で書きます。
視点を入れ替えると、話は逆に見えます。物件を探す期間はせいぜい数ヶ月ですが、借りて使う期間は数年に及びます。契約は入口にすぎず、長いほうの期間に相談相手がいない状態のほうが本来は不自然です。
2. 入居してからの最初の三ヶ月にしておくこと

契約後のご相談で「もう少し早く伺えていれば」となりやすいのが、この時期の記録と確認です。あとから取り返しにくい項目が、この三ヶ月に集まっています。
入居時の状態を記録する
引き渡しを受けた日の状態を、写真で残しておいてください。壁と床と天井、建具の傷、什器を置く前の状態、水回り、既存の間仕切りの位置。枚数を惜しまないほうが後で助かります。
退去時の原状回復は、入居時の状態を起点に考えます。起点の記録が無いと、もともとあった傷なのか自社が使っている間についたものなのかを、後から示す手段がありません。作り直しのきかない記録です。図面と現況が違う点も、日付とともに控えておくと内装の相談でそのまま使えます。
契約の骨格を一枚にまとめる
契約書を保管しておくだけでは、必要なときに読み返せません。次の項目を一枚にまとめ、契約書のどこに書いてあるかまで併記しておくと、担当者が変わっても引き継げます。
- 賃料と共益費、面積、契約の種別(期間満了後に更新される形か、期間が来たら終了する形か)
- 契約期間の満了日と、更新や再契約の取り扱い
- 解約予告の期間と、その起算日の定め方
- 保証金や敷金の額と、償却の条件、返還の時期
- 原状回復の範囲、および工事や造作の承諾について書かれた条項の場所
この一枚ができたら、社内のカレンダーに「満了日の十二ヶ月前」と「解約予告の期限」を入れておいてください。期限に関わるものは、思い出したときには手遅れになっていることがあります。
請求の中身を最初に確認する
最初の請求書が届いたときが、内訳を確認するいちばん良い機会です。共益費に何が含まれているのか、電気は建物からの按分か個別契約か、水道は実費か定額か。契約時に説明を受けていても、実際の請求書と突き合わせると理解の解像度が変わります。
見落とされやすいのが時間外の空調です。建物の定める時間帯を外れると別料金になる形は、事業用のビルでは広く見られます。休日や夜間の稼働がある会社では、この項目だけで月々の負担感が想定と変わることがあります。
3. 契約後に相談が生まれる場面——時期で並べてみる

ご相談は思いつきで生まれるのではなく、時期に紐づいて生まれます。よくあるご相談を時期で並べると、集まり方にははっきりした偏りがあります。入居した直後、期の変わり目、更新の通知が届いた頃、そして人が増減した直後です。この章の表で、自社がいまどのあたりにいるかを確認してください。
| 時期 | その頃に起きやすいこと | このとき相談しておくと効くこと |
|---|---|---|
| 入居〜三ヶ月 | 設備の初期不具合、図面との相違、請求内容の疑問 | 入居時の記録の残し方と、請求項目の読み方の確認 |
| 一年目以降の平時 | 人の増減、席の窮屈さ、使い方の変化 | いまの区画で吸収できる範囲と、外に出す選択肢の整理 |
| 満了の十二〜九ヶ月前 | 更新か移転かを考え始める | 移転した場合の条件感と、残る場合の判断材料の準備 |
| 満了の九〜六ヶ月前 | 更新・再契約・賃料改定の通知が届く | 回答期限の確認と、比較材料をそろえる段取り |
| 解約予告の期限前 | 移転の意思決定と、予告書面の提出 | 予告の起算日の確認と、退去日と入居日の重なりの設計 |
| 退去の三〜一ヶ月前 | 原状回復の範囲の確認と工事の手配 | 契約上の範囲の読み方と、見積もりの内訳の確認 |
| 採用・異動の前後 | 遠方からの入社、転勤者の住まい | 住まい支援の型の選び方と、手配に要する時間の見込み |
この表で申し上げたいのは、相談の中身は時期でほぼ決まる、ということです。困ったことが起きてから相談先を探すのではなく、時期が来たから一度話す。順番をこう変えるだけで、選べる幅がまるで変わります。
4. 誰に聞くのが早いか——役割の違いを知っておく
相談先を取り違えると、たらい回しになって時間を失います。この章では、契約後によくある相談ごとを、連絡する先で分けて整理します。
| 相談したいこと | まず連絡する先 | 補足 |
|---|---|---|
| 共用部の不具合、清掃、鍵、夜間や休日の緊急対応 | 建物の管理会社 | 契約時に案内される緊急連絡先を、社内の見える場所に掲示しておく |
| 専有部の設備故障(空調・給湯・照明など) | 管理会社、契約によっては貸主 | 貸主の負担か借主の負担かは契約書の定めによる |
| 賃料や契約条件の変更、契約期間の取り扱い | 貸主(窓口は管理会社または仲介会社) | 回答する前に、比較材料をそろえる時間を確保する |
| 増床・縮小・移転など、区画そのものを見直したいとき | 仲介会社 | いまの区画で吸収できるかどうかも含めて相談する |
| レイアウトの変更や内装の作り替え | 内装の設計・工事を担う先 | 工事の可否は契約の条項と建物の規定による |
| 従業員の住まい、社宅の手配 | 住宅の仲介ができる先 | 採用や異動の予定が立った時点で動き始める |
| 契約書の解釈をめぐる争い、税務上の取り扱い | 弁護士・税理士などの専門家 | 不動産会社は論点と資料の整理までをお手伝いする立場 |
表のいちばん下の行は、線引きとして大切なところです。契約の条項をどう解釈するか、更新料や原状回復の費用を会計や税務でどう扱うか。こうした判断は専門家の領域で、不動産会社が結論を出す話ではありません。ただし、論点を整理し、必要な資料をそろえるところまではご一緒できます。
逆に、外の相場観が要る話を管理会社に聞いても答えは出ません。「この区画を続けるべきか」は、建物の中の情報だけでは判断できないからです。同じ規模の区画がいまどう募集されているのか、移転すると総額でいくら動くのか。この二つは外を見ている側に聞くほうが早く進みます。
5. 増える・減る・使い方が変わる——移転か我慢かの二択にしない

組織が動いたとき、多くの方が「移転する」か「このまま我慢する」かの二択で考え始めます。実際には、その二つの間にいくつもの手があります。手を並べてから選ぶと、極端な結論に飛びにくくなります。
人が増えたとき
最初に当たるのは同じ建物の中です。隣接する区画や別のフロアに空きが出ていないか。建物内での移動や増床は外に出るより負担が軽く、原状回復や引っ越しの範囲も限られます。空きの有無は、募集情報に出る前の段階で分かることもあります。
次に、いまの面積のまま収容力を上げられないかを考えます。固定席の前提を変える、使用頻度の低い会議室を減らす、什器の奥行きを変える、書類を外に出す。内装に手を入れる場合は、契約上の承諾が要るかどうかを先に確認します。
それでも足りないときに、一部の機能だけ外に出す案が出てきます。在庫や什器の保管場所、バックオフィスの席、一時的に増える人の席。全部を動かさずに済むなら、意思決定の重さは大きく下がります。
人が減ったとき、面積が余ったとき
一部だけ返せるかどうかは、建物の造りと契約の定め次第です。区画として分けられる形になっているか、分けた場合に出入口や設備が成立するか。この見立てが先で、賃料の話はその後になります。
余った面積を第三者に使わせる形は、契約で制限されているのが通常です。貸主の承諾なしに進めると契約違反として扱われかねません。小さく移り直す場合は、解約予告の期間と次の物件が決まるタイミングを同時に設計します。別々に進めると、賃料が二重になる期間か、拠点が無い期間のどちらかが生まれます。
使い方が変わったとき
一部を教室やスタジオとして使いたい、来客の数を大きく増やしたい、機械や什器を新たに入れたい。こうした変化は三つの方向から確認します。契約書の使用目的の範囲に入るか、建物の規定として認められるか、そして設備の能力が足りるか。電気の容量、床の耐えられる重さ、排気や換気の経路が主な確認先です。
避けたいのは、先に使い方を変えてから相談する形です。承諾を得ずに加えた造作は、退去時の原状回復の範囲を広げます。工事の前に一度確認しておけば済む話が、数年後に費用となって表れます。
6. 更新・解約予告・退去——時間で決まるものは、時間の前に相談する
契約後のご相談のなかで、最も取り返しがつきにくいのが期限に関わるものです。この章では、時間が判断の幅を狭めていく仕組みを具体的に見ておきます。
更新される契約と、期間で終わる契約は別物
賃貸借の契約には、期間が満了しても更新されていく形と、定められた期間が来たら終了する形の二種類があります。後者は、続けたいなら改めて契約を結び直すことになり、貸主が応じない可能性も残ります。自社の契約がどちらの形かを把握しないまま満了の直前を迎えるのが、最も避けたい状態です。期間で終わる形なら、続ける意思は早めに伝えるほうが穏やかに進みます。
賃料改定の通知が届いたとき
その場で返事をしないでください。まず、いつまでに回答すればよいのかを確認します。そのうえで判断材料を三つそろえます。近隣で同じような区画がどう募集されているかという感触、自社が実際にどれだけの面積を使えているかという実態、そして移転した場合に総額でいくら動くのかという見積もりです。
三つめの総額は、賃料の差だけでは出ません。新しい物件の初期費用、内装の工事、引っ越し、賃料が重なる期間、いまの物件の原状回復。これらを並べて、初めて「残るほうが得か、動くほうが得か」が判断できます。法律上、賃料の増減について協議する仕組みはありますが、解釈が争点になるなら専門家の話です。交渉の材料になるのは弁の立ち方ではなく、他に移れる選択肢を実際に持っているかどうかです。
解約予告は、起算日で一ヶ月ずれる
事業用の契約では、解約の予告期間を三ヶ月から六ヶ月前と定める例が多く見られます。ここで見落とされやすいのが起算日です。書面が相手に届いた日から数えるのか、予告した月の翌月一日から数えるのか。定め方によって、退去できる日が一ヶ月単位でずれます。
予告は、いったん出したら取り消せない前提で考えてください。撤回できるかどうかは貸主の判断次第です。次の物件が決まる前に出すか、決まってから出すかは、賃料が重なる期間と拠点が空く期間を天秤にかける話です。決める前に、両方の日程を紙に並べてみてください。
退去と原状回復
原状回復の範囲は、契約の条項と入居時の状態で決まります。第2章で記録を勧めたのは、この場面のためです。工事を行う会社が指定されている場合は見積もりを他社と比べにくくなりますから、早い段階で内訳の説明を求めておくほうが納得して進められます。
忘れられやすいのが工事の期間です。明け渡しの日は、荷物を出した日ではなく工事が終わった日とされることがあります。退去日から逆算し、工事に要する日数を先に確保してください。預けた保証金が戻るのも退去のあとしばらく先です。次の物件の初期費用を返還金で賄う前提にしないほうが、資金繰りは安定します。
7. 相談の仕方——伝えると話が早くなる五つの情報

「まだ何も決まっていないのですが」という切り出し方で構いません。ただ、次の五つが手元にあると、初回の会話で具体的な選択肢のところまで進めます。
- いまの契約の骨格(賃料、面積、契約の種別、満了日、解約予告の期間)
- 何が起きているか(増員の人数、拠点の統合、通知が届いた、設備が使えない)
- いつまでに決めたいか、そして社内で誰が決めるか
- 動かせる条件と動かせない条件(エリア、上限額、駅からの距離、階数、稼働の時間帯)
- 手元にある書類(契約書、図面、直近の請求書)
逆に、社内で結論を出してから相談すると選択肢は減ります。「移転する」と決めたあとにご連絡いただくと、いまの区画で吸収する案も、同じ建物の中で動く案も、最初から検討の外に出てしまいます。決める前に一度話す。それがいちばん手数の多い状態です。
相談が遅れがちな会社には、共通する前兆があります。契約書の保管場所を誰も即答できない。満了日を覚えている人がいない。設備の不調を「そのうち直す」と言ったまま数ヶ月が過ぎている。席が足りず、会議室に人が座り続けている。ひとつずつは小さな話ですが、重なったまま期限が来ると、残っている手はほとんどありません。
8. Skrrsの場合——契約のあとにご相談いただけること
ここまでを踏まえて、当社にご相談いただける範囲を書きます。お受けできないことも併せて記すほうが、迷わずに声をかけていただけると考えています。
Skrrsがお受けしているのは三つです。事業用の賃貸仲介(オフィス・店舗・教室・倉庫・工場)、内装の設計と工事、そして従業員向けの住宅仲介と社宅の手配。契約後のご相談も、この三つの範囲で承ります。対応エリアは東京都・神奈川県・埼玉県が中心ですが、エリア外のご相談も承っています。
- 増床・縮小・移転の検討(いまの区画で吸収できるかどうかの見立てを含む)
- 更新や条件の見直しにあたっての、判断材料の整理
- レイアウトの変更や、内装の作り替えのご相談
- 採用や異動に伴う、従業員の住まいのご相談
- 他社でご契約された物件についての、移転や増床のご相談
一方で、建物の日常的な管理や設備の緊急対応は当社の業務ではありません。契約書の解釈をめぐる法的な判断も、税務上の取り扱いも専門家の領域です。ご相談の内容がこの三つの外にある場合は、その旨をお伝えし、必要であれば専門家におつなぎします。抱え込まないこともかかりつけの役割だと考えています。
費用の仕組みも書いておきます。ご相談は無料です。仲介手数料は、物件のご契約が成立した際に、契約時の初期費用の一部として、法令の範囲内で申し受けます。ご契約に至らないご相談の段階で費用をいただくことはありません。「まだ動くと決めていない」段階で声をかけていただける形にしているのは、そのためです。
よくあるご質問
Q. 契約したときの担当者に、契約後も直接連絡してよいのでしょうか。
差し支えありません。むしろ、その物件を一緒に探し、条件を交渉した経緯を知っている相手に聞くほうが、話は早く進みます。図面や契約の内容を一から説明し直す手間も省けます。担当者が変わっている場合は、会社のほうへご連絡いただければ、経緯を引き継いだ者が対応します。
Q. 建物の設備が壊れました。仲介会社に連絡しても意味がないのでは。
急いで直す必要のあるものは、管理会社の緊急連絡先へご連絡ください。そこがいちばん早い経路です。ただし、貸主の負担か借主の負担かで見解が分かれそうなときや、修繕の範囲が契約書のどの条項に当たるのか分からないときは、条項の読み方を整理するところをお手伝いできます。連絡先を分けて使う、という理解が実務に近いと思います。
Q. まだ移転すると決めていない段階で相談したら、営業されませんか。
決めていない段階のほうが、選べる手は多く残っています。いまの区画で吸収できるのであれば、その案を先にお出しします。動く必要がないときに動かしても、数年後に同じことを繰り返すだけで、こちらにも良いことがありません。判断材料をお渡しして、決めるのはご自身、という関係を前提にしています。
Q. 別の不動産会社で契約した物件のことでも、相談できますか。
ご相談いただけます。移転や増床の検討、条件見直しの判断材料の整理といった話は、契約時の会社と別であっても支障ありません。ただし、その物件の日常的な窓口は契約時の会社や管理会社になります。どこから何を伝えるかを先に整理してから動くほうが、行き違いを避けられます。
Q. 賃料の改定を通知されました。すぐに返事をしなければいけませんか。
まず、いつまでに回答すればよいのかを確認してください。そのうえで、近隣の募集条件の感触、自社の使用実態、移転した場合の総額の三つをそろえてから返事をするほうが、納得のいく着地になります。法律上、賃料の増減について協議する仕組みはあります。ただし解釈そのものが争点になる場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。
まとめ
契約は、拠点をめぐる長い時間の入口にすぎません。探していた数ヶ月より、借りて使う数年のほうがはるかに長く、その間に判断すべきことは何度も訪れます。迷う時間を減らすために、この記事では三つの道具をお渡ししました。
ひとつめは、時期別の相談タイミング表です。時期が来たら一度話す、と決めてしまえば、困ってから探す動き方をしなくて済みます。ふたつめは役割の一覧です。管理会社に聞くこと、貸主に伝えること、仲介に相談すること、専門家に委ねること。分ければ、たらい回しは減ります。みっつめは、伝えると話が早くなる五つの情報です。
Skrrsは、事業用不動産の総合パートナーとして、物件を探す段階から、契約後の増減や見直し、内装、従業員の住まいまでをご一緒しています。ご相談は無料です。「これは相談していい話だろうか」と迷われたときこそ、そのままお声がけください。まだ何も決まっていない、という状態のままで構いません。