初めての拠点はどう決める?——人数・広さ・場所・予算の考え方

2026-08-14 Skrrs 編集部

初めての拠点はどう決める?——人数・広さ・場所・予算の考え方

「事務所を借りるのは初めてで、何から決めればよいのか分からない」。創業期の代表者の方とお話ししていると、最も多くいただくご相談のひとつがこれです。物件情報を眺め始めたものの、広さも場所も予算も同時に気になってしまい、かえって決められなくなる。そんな状態は決して珍しくありません。

拠点選びで大切なのは、良い物件を見つけることよりも先に、「決める順番」を整えることです。順番さえ正しければ、目の前の物件が自社に合うかどうかは、自然と判断できるようになります。逆に順番が崩れたまま探し続けると、情報量に振り回されて時間だけが過ぎていきます。

この記事では、初めて拠点を構える創業者・法人設立前後の代表者の方に向けて、事業の要件から人数・エリア・広さ・予算まで、拠点を決めるための考え方を順を追って整理します。読み終える頃には、ご自身の条件を1枚に書き出せる状態になることを目指します。

1. 拠点選びは「決める順番」がすべての土台になる

初めての拠点選びで最も多いつまずきは、「物件から見てしまう」ことです。ポータルサイトで目についた物件に心を動かされ、その物件に合わせて事業計画のほうを調整してしまう。順番が逆になると、入居後に「広すぎた」「来客に不便だった」「固定費が重かった」という後悔につながりやすくなります。

実務でおすすめしている順番は、次の5段階です。

この順番には理由があります。上流の条件ほど後から変えにくく、下流の条件ほど調整の余地が大きいからです。事業の要件そのものは変えられませんが、予算は物件のグレードや駅からの距離、契約条件の工夫である程度調整できます。変えられないものから先に決める。これが拠点選びの原則です。

なお、この順番は一度進んだら戻れないものではありません。エリアを見ているうちに予算の前提が変わることも、内見で広さの感覚が変わることもあります。大切なのは、迷ったときに立ち返る場所として順番を持っておくことです。行き当たりばったりの検討と、順番に戻りながらの検討とでは、同じ回り道でも到達点の質が違います。

2. まず事業の要件を言語化する

最初に確認したいのは、「その拠点で何をするのか」です。同じ「事務所」という言葉でも、業種や商流によって求められる条件は大きく変わります。来客が毎日ある会社と、社内作業が中心の会社とでは、選ぶべき物件はまったく別物です。

書き出しておきたい要件の例

特に見落とされやすいのが、許認可との関係です。人材関連の事業や士業、建設業などでは、事業所の広さや独立性が許認可の要件に含まれる場合があります。該当しそうな業種の方は、物件を決める前に要件を確認しておくと、契約後のやり直しという最悪の事態を避けられます。要件の詳細は、その許認可を扱う行政書士などの専門家に確認しておくのが確実です。

また、最初は自宅やバーチャルオフィスで登記し、事業が軌道に乗ってから拠点を構えるという進め方もあります。一方で、取引先との契約や金融機関とのやり取りで事務所の実在を確認される場面もあるため、どのタイミングで独立した拠点を持つかは、事業の性質と相手先との関係に照らして判断するのがよいでしょう。

もうひとつ、物件側の「用途」の確認も欠かせません。同じ貸室でも、事務所としての利用は可能でも、教室のように不特定の人が出入りする使い方や、店舗としての利用は認められていない物件があります。使い方をあいまいにしたまま契約すると、入居後にトラブルの原因になります。要件の言語化は、物件との相性を確かめるための共通言語をつくる作業でもあるのです。

3. 人数と働き方から必要な広さを考える

窓から市街を望む、什器のない空のオフィスフロア
広さの感覚は図面だけでなく、実際の空間で確かめると精度が上がります

事業の要件が固まったら、次は広さです。実務では、オフィスの広さについて1人あたり2〜3坪程度を目安とする考え方が広く知られています。ただし、この数字をそのまま人数に掛けるだけでは不十分です。広さは「執務」「会議」「収納」の3つに分けて積み上げると、実態に合った数字になります。

たとえば3人で創業し、月に数回の来客がある会社を考えてみます。執務に3人分のデスクと通路、来客用に4人が座れる応接、書類と備品の棚がひとつ。こうして積み上げると、「3人×1人あたりの目安」という掛け算で出した数字より一回り大きくなることに気づくはずです。この積み上げと掛け算のずれこそが、入居後の「思ったより狭い」を防ぐ情報になります。

働き方の設計も広さに影響します。リモートワークを併用するなら、全員分の固定席は不要かもしれません。逆に、電話やオンライン会議が多い業務なら、音の問題を避けるための個室や間仕切りが必要になり、単純な坪数以上に「区切れる形かどうか」が重要になります。人数だけでなく、1日の仕事の風景を思い浮かべながら考えると、必要な広さの解像度が上がります。

もうひとつ、面積表記には注意が必要です。物件情報の面積には、廊下やトイレなどの共用部分を含んで表記される場合と、実際に使える部分だけを表記する場合があります。同じ「10坪」でも有効に使える広さが違うことがあるため、内見の際に「実際に使える範囲」を自分の目で確かめることをおすすめします。

将来の増員も考慮したい要素ですが、ここには落とし穴があります。3年後の理想の人数に合わせて借りると、当面は使わない空間に固定費を払い続けることになります。事業用の契約期間は2年程度の設定が多いため、まずは「2年以内に現実的にあり得る人数」を上限として考え、それを超える成長が見えたら住み替えを検討する、という二段構えが現実的です。

4. エリア選びの4つの軸

東京の中規模オフィスビルが並ぶ市街の眺め
エリアは通勤・来客・採用・コストの4つの軸で絞り込みます

エリアは「なんとなく都心」「知っている街」という感覚で選ばれがちですが、判断軸を明確にすると一気に絞り込みやすくなります。実務でよく使う軸は次の4つです。

判断軸見るポイント重要度が高い事業の例
顧客からのアクセス主要顧客の所在地からの移動時間・訪問のしやすさ来客型・訪問営業型の事業
採用のしやすさ沿線の通いやすさ・駅からの距離・街の印象近い将来採用を予定している事業
代表の通勤自宅からの所要時間・乗換回数創業期全般(代表の時間が最大の資本)
取引先からの見え方住所の印象・ビルの外観と共用部与信や信頼感が重視される商流

4つの軸をすべて満たすエリアは、当然ながら賃料も高くなる傾向があります。大切なのは、自社にとっての優先順位です。たとえば受注が既存の紹介中心で来客が少ないなら、「顧客からのアクセス」の優先度を下げて賃料を抑える、という判断ができます。

採用を予定している場合は、求人を出す側の視点でエリアを見ておくこともおすすめします。募集情報に書く駅名や駅からの徒歩分数は応募のしやすさに影響しますし、面接に来る候補者は駅からの道のりで会社の第一印象をつくります。拠点は自社の名刺でもある、という視点です。

見落とされがちなのが「代表の通勤」です。創業期は代表が最も長く事務所にいる存在であり、通勤の負担は日々の意思決定の質に直結します。対外的な条件だけでなく、自分が毎日通い続けられる場所かどうかも、正当な判断軸として扱ってよいと考えています。

エリアは1つに絞り込まず、第1候補と第2候補を持っておくのがおすすめです。事業用物件は住居に比べて流通量が少なく、希望エリアに希望条件の空きがないことも珍しくありません。隣の駅、1駅先に広げるだけで、賃料や広さの条件が大きく変わることもあります。

5. 予算の組み方——賃料は「逆算」で決める

机上の電卓と書類。賃料予算を計算する
賃料は「払える上限」からの逆算で先に決めてから物件を見ます

予算で最初に押さえたいのは、賃料を「払えるか」ではなく「払い続けられるか」で判断する、という点です。契約時に払えることと、売上が計画を下回った月にも支払いを続けられることは、まったく別の問題です。

賃料の水準は、売上計画と資金計画からの逆算で考えます。月々の固定費全体の中で賃料が占める割合を確認し、売上が想定を下回る月が続いても資金がもつ水準に収める。「売上の何%までなら適正」という一律の数値はありません。粗利率や人件費の構造が事業ごとに違う以上、自社の数字から逆算するしかないのです。

また、予算は「月額」と「初期」の二層で考える必要があります。事業用物件では、敷金・保証金として賃料の6〜12ヶ月分程度を求められる例が多く、前家賃や仲介手数料、保険料などを合わせると、初期費用の合計は月額賃料の何倍にもなります。月額だけを見て物件を選ぶと、契約の段階で初期費用が用意できないことに気づく。これも創業期によくある落とし穴です。

初期費用を抑える選択肢として、前の入居者の内装が残った「居抜き物件」もあります。内装工事費を大きく抑えられる可能性がある一方、退去時の原状回復の範囲など確認すべき点も増えるため、条件をよく読み込んだ上で判断することが大切です。

月額の予算を考える際は、賃料本体だけでなく、共益費・管理費、水道光熱費、駐車場代など、毎月発生する周辺費用も合算して見てください。物件情報の賃料表記に共益費が含まれているかどうかは物件によって異なり、比較の際に見落とすと判断を誤ります。「月に出ていくお金の総額」で横並びにするのが、正しい比べ方です。

もうひとつ見落としやすいのが消費税です。住居の家賃と異なり、事業用の賃料や共益費には原則として消費税がかかります。物件資料の金額が税込か税別かは物件によって異なるため、比較の際は税込の総額に揃えて見比べてください。月単位では小さく見えても、年間で見れば決して小さくない差になります。

6. シェアオフィスという選択肢も公平に検討する

ここまで賃貸オフィスを前提にお伝えしてきましたが、創業期にはシェアオフィスやレンタルオフィスという選択肢もあります。初期費用を抑えて早く始められること、契約や解約の手続きが比較的軽いことは、先行きの変化が大きい創業期にとって実質的な利点です。

一方で、人数が増えたときの月額の伸び方、来客対応のしやすさ、登記や許認可との相性など、事前に確認しておきたい点もあります。どちらが優れているかという話ではなく、事業のフェーズと要件のどちらに合うかで選ぶのが正解です。1〜2名で身軽に始めたい場合と、採用や来客を前提に構えたい場合とでは、答えは変わります。

迷ったときは、次の4点を確認すると判断しやすくなります。

シェアオフィスと賃貸オフィスの詳しい比較は別の記事で扱う予定ですので、迷っている方はそちらも参考にしてください。この記事でお伝えした「決める順番」は、どちらを選ぶ場合でもそのまま使えます。

7. 内見までに——検討内容を1枚にまとめる

机に広げた平面図とメジャー、ノート
検討した条件を1枚にまとめておくと、内見からの判断が速くなります

決める順番に沿って検討できたら、内容を1枚の条件シートにまとめておきましょう。項目は次の通りです。

この1枚があると、不動産会社への相談が具体的になり、紹介される物件の精度が上がります。「いい物件ありますか」という聞き方と、「この条件に合う物件はありますか」という聞き方とでは、返ってくる答えの質がまったく違います。

例えばSkrrsでは、初回のご相談をこの条件シートづくりから始める形をとっています。条件が固まっていない段階でも、書き出す過程で「譲れない条件」と「調整できる条件」の区別が見えてくるためです。どの会社に相談する場合でも、この準備の仕方そのものは同じように役立ちます。

さらにこのシートは、入居審査の場面でも役立ちます。創業期は決算書がないため、事業計画や代表者の経歴、拠点の使い方の明確さが審査の判断材料になります。条件を整理して臨む姿勢そのものが、貸す側にとっての安心材料になるのです。

実際の内見では、写真では分からない点を確かめます。日当たりと空調の効き、コンセントの位置と数、携帯電話の電波、エレベーターの待ち時間、共用部の清掃状態、周辺の昼と夜の雰囲気。可能であれば曜日や時間帯を変えて2回見ると、判断の精度が上がります。ここでも条件シートがあれば、「何を確認すべきか」がぶれません。

よくあるご質問

Q. 拠点を決めてから会社を設立すべきですか、設立後に探すべきですか。

どちらの順でも進められます。設立前であれば、代表者個人の名義で申込みを行い、設立後に法人契約へ切り替える進め方が一般的です。ただし切替の可否や条件は物件によって異なるため、探し始めの段階で「設立予定であること」を不動産会社に伝えておくとスムーズです。なお、設立手続きそのものは司法書士などの専門家にご相談ください。

Q. 1人で創業しますが、どのくらいの広さが必要ですか。

執務だけなら1人あたり2〜3坪程度が目安として知られていますが、来客の有無で答えは大きく変わります。応接が要るなら小さめの会議スペース分を足して考えます。逆に来客がほとんどないなら、シェアオフィスの個室という選択肢も含めて比較すると、固定費を抑えられる場合があります。

Q. 賃料はいくらまでなら安全という基準はありますか。

一律の基準はありません。粗利率や人件費の構造が事業ごとに異なるためです。考え方としては、売上が計画を下回った月が数ヶ月続いても支払いを続けられる水準かどうか、資金計画に賃料を入れて確認することをおすすめします。迷う場合は、あえて一段階抑えた物件から始めるのも堅実な選択です。

Q. 立地と広さ、どちらを優先すべきですか。

事業の要件次第です。来客や採用が事業の生命線なら立地を、作業や保管が中心なら広さを優先するのが基本の考え方です。両方を満たそうとすると予算が大きく膨らむため、「どちらを妥協しても事業が成り立つか」という視点で優先順位を付けてみてください。

Q. 探し始めてから入居までどのくらいかかりますか。

物件により幅がありますが、申込みから審査・契約を経て入居まで1〜2ヶ月程度かかる例が一般的です。内装工事を行う場合はさらに期間が必要になります。希望の入居時期がある場合は、2〜3ヶ月前には探し始めておくと余裕を持って比較検討できます。

まとめ——順番を守れば、初めてでも迷わない

拠点選びは、①事業の要件、②人数と働き方、③エリア、④広さ、⑤予算の順に決めていくことで、初めてでも迷わず進められます。変えられない条件から先に固め、調整できる条件は後に回す。物件はその条件に照らして「合うか、合わないか」で判断する。この型さえあれば、情報の海に振り回されることはありません。

Skrrsは、事業用不動産の総合パートナーとして、創業期の拠点探しのご相談を承っています。ご相談は無料です。仲介手数料は物件のご契約が成立した際に、契約時の初期費用の一部として法令の範囲内で申し受けます。「まだ条件が固まっていない」という段階のご相談も歓迎していますので、条件シートづくりからご一緒できれば幸いです。

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