オフィスが見つからない時期の探し方——貸し手市場での動き方
2026-10-22 Skrrs 編集部

「半年ほど探しているのですが、条件に合う物件が出てこないまま時間だけが過ぎています」。オフィスの移転を検討されている方から、こうしたご相談をいただくことがあります。話を伺うと、探し方が雑なわけでも、条件が極端なわけでもないことがほとんどです。
募集が少なく、条件が貸主に有利になりやすい時期には、同じ探し方をしていても結果が変わります。良い区画に複数の会社が同時に手を挙げ、先に動いた会社が決めていく。後から見に行った側には、そもそも情報が届いていなかった、ということが起こります。移転自体を断念する会社も出てきます。
この記事では、そうした局面で「どう動けば取れるのか」を段取りとして整理します。条件をどこまで広げるかではなく、動き出す時期の決め方、条件の固め方、情報が届く順番の変え方、内見から申込までの準備、今の契約との重なりの設計。読み終える頃には、次の一週間で何をするかが決まっている状態を目指します。
1. 「物件が出てこない」の正体——足りないのは物件か、順番か
探しても出てこないと感じているとき、実際に起きていることは三つに分かれます。この切り分けを先にしないと、打ち手が空回りします。
一つめは、情報が届いていない状態です。募集が少ない時期ほど、条件のよい区画は広く掲載される前に動きます。掲載を毎日見ていても、載る頃には申し込みが入っている、ということが起こります。この場合、探している時間の長さは結果にほとんど影響しません。
二つめは、届いてはいるが判断が間に合っていない状態です。紹介から内見まで一週間、社内で相談するのにもう一週間。その間に別の会社が決めていきます。原因は探し方ではなく決め方の側にあります。
三つめは、条件そのものが今の局面では成立しにくい状態です。面積・エリア・賃料・入居時期を同時に満たす区画が、そもそも市場に出ていない。ここだけは条件の側を動かさないと解けません。
自分がどれに当てはまるかは、数えれば分かります。直近三ヶ月について、次の四つを書き出してみてください。
- 受け取った物件情報の件数(直近三ヶ月)
- 実際に内見した件数
- 申込まで進んだ件数
- 見送った理由の内訳(金額・面積・立地・タイミング)
受け取った件数が少なければ一つめ、受け取っているのに見に行けていないなら二つめです。見送った理由が同じ項目に集中していれば、三つめの可能性が高くなります。
実務で多いのは、一つめと二つめです。つまり、条件を広げる前にできることが残っています。物件がないのではなく、順番が回ってきていない。この捉え直しが本記事の出発点です。
2. 動き出す日を逆算する——解約予告と更新時期から決める

探し始める時期は、気持ちが動いた日ではなく、今の契約から逆算して決めます。ここを先に固定すると、以降の判断が速くなります。
事業用の賃貸借では、解約の際に一定期間前の予告を求める定めが置かれているのが一般的です。オフィスでは六ヶ月前という設定がよく見られ、契約の内容によってはさらに長いこともあります。定期借家の形であれば、そもそも中途解約の扱いが違います。まずは契約書を開いて、予告期間と満了日を確認してください。
この二つが分かると、いつなら退去できるのかという日付が定まります。移転の計画は、この日付から逆に置いていくのが実務的です。
| 退去日からの逆算 | この時点でやっておくこと |
|---|---|
| 約12ヶ月前 | 条件の骨格を社内で合意する。面積・エリア・入居時期・月額の上限を文章にする |
| 約10ヶ月前 | 仲介会社に条件を伝え、掲載前の段階で声がかかる関係をつくる |
| 約8ヶ月前 | 内見を始める。決められる人が同行できる体制にしておく |
| 約7ヶ月前 | 申込に要る書類を揃えて手元に置く。決算書・会社案内・代表者情報など |
| 約6ヶ月前 | 解約予告を出せる状態にする。移転先が固まった時点で通知できるよう準備する |
| 予告後 | 契約手続き・内装の設計と工事・引越しを並行で進める |
表の月数は予告期間が六ヶ月の場合の一例です。三ヶ月の契約なら全体が前に詰まり、内装に時間のかかる業態なら前倒しが要ります。大事なのは期間の長さではなく順番です。
よくある失敗は、条件の合意より先に内見を始めることです。評価の基準がないまま見ると、見た数だけ迷いが増えます。十件を超えたあたりで記憶が混ざり、最初に見た区画がよかったのでは、という話に戻ります。
3. 条件は広げる前に「確定」させる——譲れない軸と動かせる軸

条件を緩めるかを考える前に、そもそも条件が社内で確定しているかを点検します。確定していない条件は、良い区画が出たときに判断を止めます。
実務でよく見るのは、面積とエリアだけが決まっていて、あとは「見てから考える」という状態です。候補が出てから社内の検討が始まり、そこで一週間が消えます。募集が少ない局面では、その一週間が結果を分けます。
動き出す前に決めておきたいのは、次の五つです。
- 譲れない軸(これが欠けたら見送る条件。二つまでに絞る)
- 動かせる軸(金額・入居時期・階数・築年数・区画の形など、幅を持たせられる条件)
- 月額の上限(賃料だけでなく、共益費・駐車場・光熱費まで含めた総額で)
- 入居できる時期の幅(早すぎる場合と遅すぎる場合の、それぞれの許容範囲)
- 誰が決めるか(申込を出す判断を、その場でできる人を明確にしておく)
要点は、譲れない軸を二つまでに絞ることです。三つ以上あると、それらが同時に満たされる区画は市場からほとんど消えます。二つなら、残りは設計の工夫や条件の組み替えで埋める余地が生まれます。
たとえば来客の多い業態で「駅からの距離」が譲れない軸なら、面積は小さくても会議室の使い方で吸収できないかを考えます。増員の見込みがあって「面積」が譲れない軸なら、エリアを一駅ずらせないか、階数の条件を外せないかを考えます。どちらも譲れないとすると、探せる範囲がほとんど残りません。
動かせる軸のなかで見落とされやすいのが入居時期です。貸主から見れば空室の期間は収入のない期間ですから、早く入れる会社は評価されます。条件が同程度なら、三ヶ月後にしか入れない会社より来月から入れる会社が選ばれます。時期に幅を持たせられるかは、金額と同じくらい効きます。
この作業は、良い区画が出てから始めても間に合いません。焦って決めた基準は後から覆ります。まだ候補がなく、落ち着いている時期にこそ書き出す価値があります。
4. 局面によって動き方は変わる——二つの市場の整理
同じ探し方が、局面によって有効にも無効にもなります。募集が多く借り手に選択肢がある時期と、募集が少なく条件が貸主に有利になりやすい時期を並べて整理します。
募集が多い時期は、待つことに意味があります。候補を並べ、比較し、条件を相談する余地がある。急いで決めると、翌月にもっと条件のよい区画が出て後悔します。慎重さが利益になる局面です。
募集が少ない時期は、これが逆転します。比較のために待つと、比較の対象そのものが消えていきます。一件を深く検討することよりも、良いと判断した時点で動ける準備ができているかが結果を分けます。
| 観点 | 募集が多く借り手に選択肢がある時期 | 募集が少なく条件が貸主に有利な時期 |
|---|---|---|
| 探し方の基本 | 候補を並べて比較する時間を取れる | 候補が出るたびに判断する。並べようとすると消える |
| 条件の扱い | 希望条件を通しやすく、相談の余地が広い | 譲れない軸を絞り、動かせる軸で調整する |
| 情報の取り方 | 掲載情報を追うだけでもある程度は足りる | 掲載前の段階で声がかかる関係が効いてくる |
| 内見のしかた | 複数を見比べてから絞り込む | 決められる人が同行し、その場で判断できるようにする |
| 申込までの速さ | 検討してから申し込んでも間に合うことが多い | 書類を揃えて待ち、条件が合えばその日のうちに動く |
| 金額の考え方 | 募集条件からの調整を相談しやすい | 金額の調整より、区画を確保できるかが先に来る |
| 今の契約との関係 | 退去日を決めてから探しても回りやすい | 移転先を先に押さえ、重なりを許容する設計が要る |
| 決裁のしかた | 持ち帰って会議で決める形でも回る | 判断基準を先に決め、権限を前に出しておく |
どちらが良い悪いという話ではありません。局面に合わない動き方をすると、努力の量にかかわらず結果が出ないというだけです。募集が多い時期の慎重さは美徳ですが、少ない時期には遅さとして働きます。
自分がどちらの局面にいるかは、統計を調べなくても現場の手応えで分かります。半年前に見た区画がまだ残っているか。問い合わせた区画にすでに他の申し込みが入っていたか。紹介を受けてから返事を求められるまでの時間が短くなっていないか。こうした感触のほうが、判断材料としては速く届きます。
5. 情報は掲載される前に動く——先に声がかかる立場をつくる
募集が少ない局面でいちばん効くのが、情報が届く順番を変えることです。探す努力の量ではなく、関係の作り方の問題になります。
事業用の物件情報は、貸主から管理会社へ、管理会社から仲介会社へ、そして掲載へ、という順で広がります。この流れのどこで自分に届くかで、検討に使える時間が変わります。掲載された段階で知るということは、いちばん最後に知るということです。
では、どうすれば早い段階で届くのか。条件の登録自体は多くの会社が受け付けていますが、登録だけでは埋もれます。差が出るのは、条件が具体的で、返事が速い相手だと認識されているかです。
紹介する側に立つと分かりやすくなります。条件のよい区画が出たとき、条件が曖昧で返事に一週間かかる会社と、条件が明確でその日のうちに動く会社の、どちらに先に声をかけるか。紹介する側も、決まらない紹介を重ねたくはありません。順番はやり取りの積み重ねで決まります。
- 条件を文章で渡しておく(面積・エリア・入居時期・月額の上限・譲れない軸)
- 見送るときも理由を返す(次の紹介の精度が上がる)
- 内見の可否は当日か翌日には返す(枠を押さえてもらいやすくなる)
- 決められる人の連絡先を共有しておく
- 状況が変わったら知らせる(増員・予算の変更・時期の前倒し)
窓口を増やせば情報も増えると考えがちですが、これは半分しか当たりません。十社に断片的な情報を渡すと、どこからも本気の候補として扱われなくなり、管理だけが煩雑になります。三社程度に、同じ内容をきちんと伝えるほうが実務的です。
例えばSkrrsでは、条件をお預かりした段階で、掲載前のものも含めて情報をお知らせする形をとっています。移転が確定していない段階でも、条件だけ伝えておくという使い方ができます。
6. 決められる状態で見に行く——内見から申込までを設計する

良い区画に出会えたかより、出会ったときに動けるかで結果が決まる局面があります。内見の前に整えておくことを具体的に挙げます。
まず書類です。申込では、会社の内容と支払い能力を示す資料を求められるのが一般的です。決算書の直近期分、会社案内、代表者の情報、保証会社を使う場合はその申込書。探し始めてから揃うまでに数日かかれば、その間に別の申し込みが入ります。先に一式をまとめ、いつでも出せる状態にしてください。
次に社内の決裁です。誰が申込の判断をするのか、その人が内見に同行できるのか。難しいなら、どう情報を渡せば判断できるのかを先に決めます。写真では決められない人なら、寸法入りの図と周辺の様子が分かる動画まで用意する前提で内見に行きます。
内見では、後から確認しにくい項目を優先して見ます。図面は後でも読めますが、その場でしか分からないこともあります。
- 電気の容量と、増設できる余地があるか
- 空調の方式と、時間外に使えるか(費用の扱いも含めて)
- 通信回線の引き込み状況と、工事が要るかどうか
- 搬入経路とエレベーターの寸法(什器が入るか)
- 共用部の状態と、管理の行き届き方
- 原状回復の範囲について貸主側がどう考えているか
申込を出すことは契約ではありません。申込のうえで条件を詰めていく、という順序が一般的です。ここを重く考えすぎると動けなくなります。一方で、軽く考えて複数の区画に同時に出すのは避けてください。取り下げが続くと、次の紹介を受けにくくなります。
7. 二重賃料をどこまで許容するか——今の契約との重なりを設計する

募集が少ない局面では、良い区画を確保するために、今の契約と新しい契約が重なる期間を受け入れる判断が要ることがあります。ここを先に決めておくと、いざというときに止まりません。
重なりが生まれるのは、貸主側が入居時期を待てないからです。三ヶ月先の入居を待つより来月から入る会社を選ぶ判断は、自然に起こります。借り手に落ち度がなくても、時期だけで見送られることがあります。
借りる側から見れば、この重なりは追加の負担です。ただし重なりを一切認めない方針は、この局面では候補を大きく狭めます。決めるべきは「受け入れるか」ではなく「何ヶ月まで、月額いくらまでなら受け入れるか」です。これを先に決めるだけで、判断の速さが変わります。
考え方としては、重なる期間の賃料と共益費の合計を出し、移転で得られるものと並べます。人員が入りきらないことによる機会の損失、今の場所に留まった場合の更新の費用、探し直す期間に社内でかかる手間。金額にしにくいものもありますが、並べてみると材料になります。
負担を軽くする選択肢もあります。入居後の一定期間、賃料の発生を据え置く扱いを相談できる場合があり、内装工事の期間と重ねられれば実質の負担は下がります。募集が少ない局面では通りにくい傾向がありますが、聞く価値はあります。
反対側から縮める方法もあります。予告期間に満たない分の賃料を支払うことで、早期の解約に対応できる契約があります。解約に関する条項に書かれていることが多いので、重なりを短くする選択肢として確認しておいてください。金額として見えれば、どちらが得かを比べられます。
重なりの許容幅を決めていない状態で良い区画に出会うと、その場では決められません。そしてこの局面で「持ち帰って検討します」と言った区画は、戻ってこないことがあります。
よくあるご質問
Q. 探し始めてから入居までは、どのくらいの期間を見ておけばよいですか。
募集が多い時期は三ヶ月から半年程度で回ることもありますが、募集が少ない局面では候補が出るまでの待ち時間が読めません。内装の設計と工事、引越しまで含めると、退去日の十ヶ月から一年ほど前に条件を固めて動き出すと余裕が生まれます。予告期間が三ヶ月の契約なら、その分は詰められます。
Q. 複数の仲介会社に声をかけたほうが、情報は集まりますか。
三社程度までであれば有効です。それ以上になると同じ区画を別々の会社から紹介されることが増え、条件も断片的にしか伝えられなくなって、どの会社からも優先度の高い相手として扱われにくくなります。数より、伝える内容の密度を上げるほうが結果につながります。
Q. 良い区画が出たときに、その場で申し込んでも問題ないでしょうか。
申込は契約ではなく、条件を詰めるための入口という位置づけが一般的です。ただし出したあとの取り下げが続くと、次の紹介を受けにくくなります。申し込む基準を事前に決め、基準に合うなら当日中に動く、合わないなら見送る、という線引きをしておくと迷いません。
Q. 賃料の条件が合わないとき、この局面でも相談の余地はありますか。
募集が少ない時期は、賃料そのものの調整は通りにくくなる傾向があります。一方で、賃料の発生を据え置く期間、入居の時期、原状回復の範囲、看板や設備の扱いといった条件面では、話し合いの余地が残ることがあります。金額の一点でなく、契約全体でどこが動くかを探すほうが現実的です。
Q. 移転をいったん見送って、今の場所で更新するという判断はどうですか。
選択肢として十分にあり得ます。ただし見送るなら、次にいつ検討し直すかと、何が起きたら前倒しするかを決めておいてください。従業員が何名を超えたら動く、次の更新の一年前になったら動く、といった形です。見送りと同時に情報収集まで止めると、次の機会にまた同じところから始めることになります。
まとめ
募集が少なく、条件が貸主に有利になりやすい局面では、探す努力の量よりも段取りが結果を決めます。動き出す日を今の契約から逆算し、譲れない軸を二つまでに絞って条件を確定させ、掲載される前の段階で情報が届く関係をつくり、書類と決裁を整えたうえで内見に臨む。そして、今の契約との重なりをどこまで許容するかを先に決めておく。この五つが揃っていると、良い区画が出たときに動けます。
逆に言えば、五つのうち一つでも欠けるとそこで止まります。物件が出てこないと感じているとき、原因が市場の側にあるのか、自分たちの準備の側にあるのかを一度切り分けてみてください。多くの場合、まだ手を打てることが残っています。まずは契約書を開いて、予告期間と満了日を確認するところからで構いません。
Skrrs株式会社は、事業用不動産の総合パートナーとして、オフィス・店舗・教室・倉庫などの賃貸仲介、内装の設計・工事、従業員の方向けの住宅仲介と社宅の手配をご一緒しています。ご相談は無料で、仲介手数料は物件のご契約が成立した際に、契約時の初期費用の一部として法令の範囲内で申し受けます。移転が確定していない段階でも、条件だけお預けいただければ情報をお知らせできます。時期の逆算や条件の整理からでも、お気軽にお声がけください。