ビルの空きスペースは収益源になる——設置型サービスの全体地図

2026-10-19 Skrrs 編集部

ビルの空きスペースは収益源になる——設置型サービスの全体地図

「うちは満室なので、これ以上できることはないと思っています」。ビルをお持ちの方とお話ししていると、こうした言葉をよく耳にします。ただ、満室という言葉が指しているのは、賃貸借の対象になっている面積が埋まっている状態です。建物には、それ以外の面積があります。

軒先の数歩ぶんの余白、エントランス脇の壁面、エレベーターホールの一角、屋上、駐車場の端の一区画。これらは募集の対象になっていないため、空室率にも稼働率にも現れません。数字に出ない面積は、意識して見に行かない限り何年でもそのまま残ります。

近年は、この種の余白に何かを設置して使う仕組みが増えました。自動販売機、宅配ロッカー、シェアサイクルのポート、モバイルバッテリーのスタンド、EV充電器、広告や看板。この記事では、そうした設置型サービスの全体像を地図のように整理し、あわせて契約の形・原状回復・近隣への配慮・テナントとの調整という、あとから効いてくる論点を先にお伝えします。いくら入るかではなく、どの順番で判断するかという話です。

1. 空室対策とは別軸——「募集していない面積」という見方

設置型サービスの検討は、空室対策と同じ引き出しに入れないほうがうまくいきます。空室対策は「募集している区画をどう埋めるか」の話であり、設置型は「そもそも募集の対象になっていない面積をどう扱うか」の話です。見ている面積が違い、動かせる時間の単位も違います。

この二つを混ぜて考えると、期待の置き方を誤ります。設置型で生まれる収入は、賃貸事業の主軸を置き換える規模のものではないのが通常です。空室が埋まらない状態を設置で埋め合わせようとすると、手間のわりに効かなかったという結論になりやすくなります。

一方で、この面積には空室と違う性質もあります。募集していないので「埋まらないリスク」が存在しない代わりに、いったん置くと動かしにくいという別の重さを持ちます。契約の期間、固定の方法、電気の引き回し。これらが決まった時点で、その場所の使い方は数年単位で固定されます。ですから判断の軸は「いくらになるか」ではなく「この場所を数年その用途に固定してよいか」に置くほうが実務に合います。

2. まずスペースの棚卸し——ビルのどこが空いているか

白い机の上に、無地のビルの平面図(線だけ・文字なし)が広げられ、何か所かに無地の丸い付箋が貼られている

何を置けるかを考える前に、置ける場所を洗い出します。順番が逆になると、「このサービスを入れたいが場所がない」という行き止まりに入りやすくなります。図面を広げ、あわせて現地を一周してください。図面に描かれていない余白が使えることもあります。

洗い出すときは、面積だけを記録しても足りません。同じ広さでも置けるものが変わる条件が四つあります。電源が近くから取れるか、人がどの向きに歩いているか、雨がかかるか、夜も明るいか。この四つを場所ごとに書き添えておくと、次の絞り込みが速くなります。

あわせて、最初の段階で候補から外す判定もしておきます。避難や通行の経路にかかっている場所、消火設備の前、シャッターの可動域、点検で人が入る機器の前。ここに触れる場所は、条件がよく見えても検討の対象にしないほうが安全です。棚卸しの目的は候補を増やすことではなく、迷わない候補を数か所に絞ることです。

3. 何が置けるのか——設置型サービスの全体地図

中小規模ビルの前面と脇の外構を引きで見る

設置型サービスは数多くありますが、建物側から見ると大きく六つの系統に整理できます。系統ごとに、向いている場所も、建物側で用意するものも、話をする相手も違います。まず地図を持ってから、自分の建物に当てはまる系統を絞る順で進めてください。

一つめは飲料や食品などの自動販売機です。屋外の軒先や共用部に置かれ、電源が要ります。通行量そのものよりも、その場所に人が滞在するかどうかが効きます。

二つめは宅配ロッカーや受取ロッカーです。エントランス周辺や駐車場側に置かれ、通行を妨げない幅と、利用者が出入りできる時間帯が条件になります。テナントの受取の手間が減るため、建物の使い勝手そのものが上がる系統でもあります。

三つめはモビリティのポートです。シェアサイクルや小型モビリティを停める区画で、LUUPなどの名称で提供されているものが知られています。道路からの出入りのしやすさ、区画の平坦さ、歩道からの見え方が条件になります。

四つめはモバイルバッテリーのスタンドです。屋内で人が滞在する場所に置かれ、必要なのは小さな設置面と電源だけです。飲食や物販のテナントが入っている建物で検討されることが多い系統になります。

五つめはEV充電器です。駐車場に設置しますが、他の系統と違って電気設備の容量や配線の工事が伴います。既存の受電容量で足りるかどうかが最初の分かれ道になります。

六つめは広告・看板・デジタルサイネージです。壁面、屋上、フェンスなど、見える面を使います。屋外の広告物には地域ごとの決まりがあり、大きさや場所に制限がかかることがあります。建物の外観や、一階テナントの見え方にも直接影響します。このほか、駐車場を時間貸しにする、現金自動預払機を置くといった選択肢もあります。

系統向いている場所建物側に要るもの先に確認すること
自動販売機軒先・共用部・休憩スペース電源、雨をある程度避けられる面空き容器の回収を誰が行うか
宅配・受取ロッカーエントランス周辺、駐車場側通行を妨げない幅、利用できる時間帯テナントの荷物の動線と重ならないか
モビリティのポート道路に面した外構、駐輪スペース平坦な設置面、道路からの出入り隣地との境界、夜間の滞留
モバイルバッテリー屋内で人が滞在する場所小さな設置面と電源共用部に物を置くことの取り決め
EV充電器駐車場の区画電気設備の容量、配線の経路受電容量が足りるか、工事の範囲
広告・看板・サイネージ壁面、屋上、フェンス固定できる下地、必要に応じて電源地域の決まり、テナントの看板を隠さないか

4. 収益の型は四つ——金額の大小より「型」で見る

相手から示される条件は、金額の多い少ないだけでは比べられません。収入の入り方には型があり、型が違えば向いている建物も、あとで生じる手間も変わります。

固定型は、利用の多寡にかかわらず毎月一定の額が入る形です。見通しが立てやすい反面、相手にとっては稼働が悪いと負担になるため、期間の途中で撤退の申し出が出る可能性は残ります。変動型は、売上や利用回数に応じて額が変わる形です。その場所の実力がそのまま出るため、結果が読めない系統ではこの型で始めて様子を見る進め方も現実的です。

設備提供型は、相手が費用を負担して設備を設け、オーナー側の収入は小さいか無い形です。対価は金銭ではなく、建物の機能が増えることそのものになります。非金銭型は、そもそも収入を目的とせず、テナントの利便、防犯、環境面の訴求として置く形です。募集のときに説明できる材料が増えるという意味で、賃貸事業の側に効きます。

選ぶときの軸は、額の大きさではなく二つです。ひとつは手離れ——設置後にオーナー側が対応する場面がどれだけ残るか。もうひとつは賃貸事業への影響——本業である賃貸の価値を上げるのか、邪魔をするのか。この二つで見ると、いちばん高い条件が最良とは限らないことが見えてきます。

型収入の見え方向くケース注意点
固定型毎月一定。利用の増減に左右されない見通しを重視したい/手間を抑えたい稼働が悪いと相手から撤退の申し出が出ることがある
変動型利用に応じて増減する立地に自信がある/まず試したい低調な月が続く可能性を織り込んでおく
設備提供型収入は小さいか無い建物の使い勝手を上げたい対価が金銭でないぶん、終わり方を明確にする
非金銭型収入としては現れない募集での説明材料、防犯や利便を重視維持の手間が誰の負担になるかを先に決める

5. 契約の形——建物の一部を貸すのか、設置を認めるのか

会議テーブルの上に、無地の契約書が2部、左右に並べて置かれ、その間に1本のペン

同じ「置く」でも、結ぶ契約の性質によって終わり方がまったく変わります。ここは金額より先に確認しておきたい部分です。大きくは、建物や土地の一部を貸す形と、設置することを認める形の二つに分かれます。

建物や土地の一部の賃貸借として結ぶ場合、借りる側の立場を保護する仕組みが働きます。期間が来たからといって当然に終わるとは限らず、こちらの都合で終わらせにくくなることがあります。区画として明確に囲われた面積を、長期にわたって使ってもらう場合に選ばれる形です。

設置を認める形は、期間と条件を定めて許諾する取り決めです。共用部の一部に機器を置くような、面積が小さく可搬性のある設置ではこちらが選ばれることが多くなります。どちらが正しいという話ではなく、面積の規模、想定する期間、そして建物の将来の予定によって選び分けます。契約の名前が何であっても、実態がどちらに近いかで扱いが決まる場面がある点にはご注意ください。

そのうえで、書面に入れておきたい項目は次のとおりです。ここが空白のまま設置されると、数年後に困るのはたいていオーナー側になります。

特に六番目の一時撤去は、見落とされやすいわりに影響が大きい項目です。外壁や屋上の工事は十数年の周期で巡ってきます。そのときに動かせない設置物があると、足場の組み方や工事の順序に制約がかかり、工事費そのものが変わることがあります。

6. テナントと近隣——先に通しておく合意

設置をめぐって相談が持ち込まれる場面で多いのは、収入の話ではありません。人の動線と、音や光をめぐるやりとりです。物理的に置けることと、置いて問題が起きないことは別だと考えておいてください。

まずテナントです。共用部に物が増えると、そこの使い方が変わります。エントランスに人が立ち止まる、荷物の出入りが増える、通路の幅が実質的に狭くなる。賃貸借契約で共用部の使い方に触れている場合は、その内容との整合も見ておきます。

よくあるご相談では、設置そのものより「聞いていなかった」ことが問題になっています。事前に一報を入れてあるかどうかで、同じ設置物への受け止め方が変わります。テナントにとって利便が上がる系統であれば、説明のしかた次第で歓迎されることもあります。

次に近隣です。見ておく点は四つあります。音——冷却の機器が動く音は、夜間の住宅地では思ったより響きます。光——夜間に光る看板や照明の明るさ。人の滞留——夜に人が集まる場所になっていないか。ごみ——空き容器や包装が周辺に散らかる可能性。このうちごみの扱いは契約時に決めていないと、結局オーナー側の負担として残りがちですので、回収の頻度と担当を書面のどこかに残しておいてください。

もうひとつ、一階に店舗のテナントが入っている建物では、看板や外観の見え方を遮らないかを確認します。視認性は売上に直結する条件であり、設置の位置を少しずらすだけで避けられることも多い問題です。

7. 原状回復と撤退——「やめるとき」を置く前に決める

設置物が撤去されたあとの、清潔な共用部の壁際

設置は、始めるより終わるほうが難しいものです。撤去のときに何が起きるかを置く前に決めておけるかどうかで、数年後の負担が変わります。

固定の方法から見ていきます。床や壁にアンカーで留める場合、外した後に穴と跡が残ります。屋上に設置する場合はさらに注意が要ります。防水の層を貫通する固定をすると、防水に関する保証の扱いが変わることがあり、雨漏りが生じたときの責任の切り分けが難しくなります。電気の配線も同じで、分電盤から新たに引いた回路をどこまで戻すのかを決めずに設置すると、撤去のときに使わない配線が壁の中に残ります。

そして、撤去の費用を誰が負担するかです。契約が満了する場合だけでなく、相手がその事業から撤退した場合にどうなるかも決めておいてください。放置されたまま連絡が取れなくなると、処分は建物側の負担になります。

屋上では、防水の更新周期と設置の期間が噛み合っているかも見ます。防水の改修が数年後に控えているのに、それを超える期間の設置を認めると、工事のたびに撤去と再設置の費用が発生します。

備えとして、設置の前後で写真を残しておくことをおすすめします。設置前の床や壁の状態、設置後の固定の様子、配線の経路。撤去のときに「どこまで戻すか」を判断する材料になります。

8. 検討の順番——確認から設置までの進め方

最後に、ここまでの内容を順番に並べ直します。この順で進めると後戻りが起きにくくなります。逆に、三番目を飛ばして相手探しから始めると、数年後の工事のときに撤去費用という形で戻ってきます。

五番目で複数の相手に当たると、条件の比較だけでなく、相手の運営体制も見えてきます。故障したときにどれくらいで来てくれるのか、清掃や補充の頻度はどうか、担当者と連絡が取れるか。置いたあとの手間は、この部分でほとんど決まります。

八段階を一気に進める必要はありません。棚卸しと除外の判定までは、相手と話をする前にご自分だけで終えられます。ここまで済ませておくと、検討に入ったときの判断が速くなります。

よくあるご質問

Q. 空きスペースに何かを設置すると、税金の扱いは変わりますか

設置するものの内容と固定のしかたによって、扱いが変わる場合があります。建物や構築物として評価されるものを新たに設けたときと、置いてあるだけの機器とでは考え方が異なります。収入の計上のしかたも含め、税務の判断は税理士にご確認いただくのが確実です。

Q. テナントの同意は、どこまで取る必要がありますか

共用部の使い方に関する取り決めが賃貸借契約のなかにある場合は、まずその内容との整合を確認します。取り決めが無い場合でも、共用部の状況が変わるのであれば、事前に内容と時期をお知らせしておくことをおすすめします。同意という形式より、後から知って驚くという状況を避けることのほうが、関係の維持には効きます。

Q. 設置してみて思ったほど使われなかった場合、やめられますか

契約に定めた期間と、途中でやめる場合の取り決め次第です。中途解約の条項が無いまま長期の期間を設定していると、期間の満了まで動かせないことがあります。試してみたい気持ちがある場合は、期間を短めに設定するか、更新の可否を判断できる時点を設けておくと調整しやすくなります。撤去の費用を誰が負担するかも同時に決めておいてください。

Q. 電気代はどちらが負担するのが一般的ですか

設置する側が負担する形が多く見られますが、負担のしかたには幅があります。子メーターを設けて実費で精算する方法、あらかじめ定めた額を毎月受け取る方法、賃料や設置料に含める方法などです。どの方法でも、検針や請求を誰が行うかまで決めておかないと毎月の手間が残ります。

Q. 管理を委託している場合、窓口は誰になりますか

委託の範囲によって変わります。日常の清掃や点検を委託していても、新たな設置を認めるかどうかの判断はオーナーの決定事項であることが通常です。一方、設置後の清掃や不具合の一次受け、テナントからの問い合わせは管理の実務に乗る部分ですので、契約前に窓口の役割分担を決めておくと運用が止まりません。

まとめ

ビルの空きスペースの活用は、収入の足し算として捉えるより、建物の機能を一つ増やす決定として捉えるほうが判断を誤りません。設置型サービスは六つの系統に整理でき、収入の入り方には四つの型があります。まず地図を持ってから自分の建物に当てはめる順で見ていくと、迷いが減ります。

そして判断の重心は、置く前ではなく置いたあとにあります。契約の形と終わり方、一時撤去の可否、原状回復の範囲、テナントと近隣への事前の説明。この四つを設置の前に決めておけるかどうかで、数年後の手間と費用が変わります。まずは場所の棚卸しと、候補から外す判定まで。ここは相手と話をする前に、ご自分で終えられる作業です。

Skrrsは、オフィス・店舗・教室・倉庫・工場などの事業用賃貸仲介を行う、事業用不動産の総合パートナーです。ご相談は無料です。空きスペースの使い方をお考えになる過程で、区画の見直しやテナント募集の条件を整理したいときには、貸す側の視点からご一緒に考えます。今すぐ動かす予定がない段階でも、お気軽にお声がけください。

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